Netflix日本コンテンツ、世界席巻へ周到な仕掛け 日本トップの坂本和隆氏が語る参入からの8年

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私も『今際の国のアリス』を見たときに、「韓国ドラマのようなクオリティの高い作品は日本の製作会社は作れない」とこれまで散々聞いてきたけど「作れるじゃん!」と感動したんですよね。「日本では作れない神話」は一体なんだったんでしょうか?

例えば制作予算というのは、一般的に過去の実績に基づいて統計学的に出してくるケースが多いですよね。一方で、Netflixで私たちがやろうとしているのは、過去にやったことのないことをどういう風にやるかということなので、統計学にはまらないんです。

もちろん、ビジネスですから回収しないと次につながらないので、日本の実写でも世界に見られるという実績を積みながら予算の規模を大きくしてきた8年間のステップだったと考えています。

そうしたステップにより、それぞれの作品に合わせた適切な予算を確保することができたのが大きいです。

Netflixでは、必ずしも大作だからハリウッドで作る、小規模だから日本で作るという判断はしないんです。『ONE PIECE』は、原作の世界観と多様性あるキャラクターを考えると、英語が主言語のハリウッド制作が望ましいですし、『幽☆遊☆白書』は日本的な世界観が物語の舞台なので、日本語、日本人で制作することが原作に忠実であり、オーセンティックであるという判断をしています。

一方、Netflixは、決断がとても早いので、うまくいかなかったら、やめるという判断もとても早いんですよね。だから、我々としてもシンプルに勝ち筋をそれぞれの作品でどう作るかというのはとても重要です。

どのくらいの方が最後まで見てくれたのか、1話だけ見てやめてしまう人が増えていないか、見た人が周りの人に話しているかということにはつねに注目しています。

日本の製作者が変わるべき点

そういった視聴データもすべて取れているのも大きいですよね。Netflixの影響もあり、日本のコンテンツはアニメだけでなく実写ドラマも世界に通用するというのが証明されはじめてますが、日本のコンテンツ製作者やコンテンツホルダーは、今後世界に向けた挑戦をするために、何を変えるべきだと思いますか?

坂本:一つには、プロデュース側がどういう制作環境で、その方たちを受け入れるかってことが、とても大切だと思っています。例えば、『パラサイト 半地下の家族』という韓国映画がアカデミー賞を取りましたが、あの企画はたぶん普通に話が来た場合、日本だったら非常に小さな制作予算でどう作るかという流れになっていた可能性が高いと思うんですね。

この感覚が、従来の日本と海外で大きく違うと考えています。それはどちらかというと、プロデュースの一つの責務ですね。

もう一つは、制作側もそこに入る以上、どう回収に持っていくかっていうお互いのコミットメントの中で、双方のコラボレーションやコミュニケーションの距離を密にするということがとても重要だと思います。

例えば日本の場合、監督史上主義がとても強い傾向としてありますけど、アメリカの場合、ショーランナーというドラマシリーズ全体のクリエイティブを統括する方がいて、脚本家も監督も複数いるやり方をしていたりします。そういった、クリエイティブのチームワークの体制についても、柔軟にいろんなやり方を提示して、考え直してよいと思います。

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