トヨタが「水素社会の実現」を諦めない本当の理由 単に「MIRAI」を売りたいから、ではない必要性

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ただし、現状ではこの給水素車、実際に運用することは不可能だ。実は水素を貯めておく高圧水素タンクの規格は現在、産業設備用の定置式を前提としたもので、こうした移動式でも同じ規格が当てはめられてしまう。

それにのっとると、1カ月前からどこでどれだけ充填するかを高圧ガス保安協会などに報告し、周囲に防護壁を作り……といったことが必要とのこと。当然、1カ月前から渋滞にはまって水素が切れてしまうことを予測できるはずはない。

現在は経産省、国交省、消防庁、警察庁などさまざまな省庁と連携し、話をしながら、規制の緩和、見直しに動いているところだという。もちろん安全は何よりも重要。それゆえに、こうして実際に車両を作り、テストを行い、着実に安全性を証明していくことが求められているのが現状と言える。

日本は水素のアドバンテージを生かせるか

「世界はすでに水素活用に舵を切っていて、ヨーロッパ、そして中国の攻勢はものすごいものがあります。その中で、われわれは日本をベースに開発をして世界展開していきたいと思っていますが、そのためには課題が多いです」

もてぎのパドックでそう話してくれたのはトヨタの中嶋裕樹副社長兼CTOである。

「今は日本にアドバンテージがある水素関連ですが、やはり実験環境が整備されているところに技術が集まってくるという面はあります。地産地消という発想で物事を考えなければいけないので、マーケットのあるところで開発から生産、そしてサービスといったところを一体でやらなければと思いますが、われわれは日本の会社ですから、ぜひとも日本で新しい技術を開発し、それを他のマーケットに展開してきたい。そんなにボリュームがでないとしてもここ日本で実証していきながら、そこで得られた知見を海外にも出していくというかたちにしたいんです」

しかしながら現状を見ると、そのうち開発拠点は日本以外のどこかでという話にもなりかねない感はある。世界が相手の競争で、開発に遅れをとるわけにはいかないのだ。

「水素で遅れをとってしまったら、結果として国力が下がると思っていますから。そういうつもりで取り組んでいるんです。われわれが一貫して言っているのは、水素社会実現のペースメーカーを自動車メーカーにさせてくださいということです。それをもう少し後押しして、もっと早いペースで走るようにしてくださるとありがたいですね」

水素の話になると、今もまだトヨタだけが力を入れているという見方をされることは多い。しかし、それは間違いだ。別にMIRAIを売るための話ではないのだということは、ここまで記してきた通りだ。

水素社会はトヨタの悲願ではなく、もはや世界の潮流。ここでの立ち遅れは、まさに国力に関わる。いや、言い方を変えれば、ここで先んじることができれば、国として未来の展望が開けてくる。

トヨタは「仲間づくり」という言葉を使って、日本の技術を集めて、世界と戦おうとしている。水素は、今ならまだ世界をリードできる分野である。国にはグローバルな視座に立って、まさに官民一体となって技術開発を推し進めてほしいところだ。

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島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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