――起業やベンチャー入社は米国の一流大学生にとって普通のことですね。そのマインドは日本とどう違うのでしょう?
米国では大企業に勤めていても、企業業績が悪かったり、本人のパーフォマンスが悪かったりすれば、簡単に解雇されます。つまり、大企業に勤めても長期的な雇用が保障されているわけではありません。雇用が保障されているという点では、大企業もベンチャーも変わりない。どちらを選んでも解雇リスクはあります。
ところが日本の大企業は原則として雇用を大事にします。日本では、簡単に潰れるベンチャーにいるよりも、伝統的な大企業にいることのメリットのほうが大きいのです。
ですから冷静に観察すれば、日米の学生は共に合理的に行動していることになります。
リスクの考え方が異なっている
――若者の就職意識が違うのは、日米でのリスクのあり方の違いだということですね。
米国人が特別、リスク好きというわけではなくて、大企業に行ってもベンチャーに行っても、リスクがそれほど違わない、ということがポイントです。
――起業を支える仕組みや人材供給のあり方については、日米で大きな違いがありますか。
ベンチャーはひとりの天才だけでできるものではありません。エンジニアはもちろん、そして経営者をバックアップするマネジメント人材が必要です。できたばかりのベンチャーに支払いを猶予する弁護士や会計士、それに起業を資金面だけでなくアドバイスなどの面でも支える投資家が必要です。親や友人、恋人の理解も不可欠です。こうしたさまざまな側面があって始めて起業が可能になり、ベンチャーが育っていくのです。
イノベーティブな製品・サービスを考える人は、クリエーティブで天才肌が多いですが、こうした人は日本にも米国にいます。「すこし変わっている」天才タイプはどの国にもいるものであって、「日本は少ない」とは決して言えないと思います。イノベーティブな人はいるが、それを生かす仕組みができていないと言ったほうがいいでしょうね。
日本にはイノベーティブな人が少ないのではなく、有能な人がベンチャー起業家やベンチャー企業の社員になりたがらないということなのです。日本の大手企業にはベンチャー起業家としての潜在能力の高い若手が埋もれているはずです。
――日本では大企業が有能な若者を抱え込んでいるということですか。
企業も個人も合理的な選択をしているはずです。日本の新卒一括採用は企業からすれば合理的です。さまざまなポストに付けながら個人の能力を伸ばすという日本企業のやり方は、企業への忠誠心を高めます。解雇の手続きが難しい背景もあり、競合他社が新卒一括採用をやっているなかでは、一企業として新卒一括採用をやめることは合理的ではないです。
個人から見ても、多くの場合は新卒で入社して定年まで働くことが合理的です。ただし自国で当たり前とされていることについて、なぜ?と疑問を持ったり、ほかのやり方がないかを検討したりしたい人はいます。普通ではないが自分にとってよりよく合っているキャリアパスを選びたい人もいます。そうした人のためにもなればと、この本を書きました。
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