乳がん「男性は患者の1%」でも知るべき3つの事情 親から子へ50%遺伝、男性もリスク12~80倍に

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次の⑤肝臓病は、乳がんとの関係がピンとこないかもしれない。実は、男性の体内で女性ホルモンの一種である「エストロゲン」濃度を高めるような状態・疾患も、男性乳がんを増加させる。

代表的なのは「肝硬変」という肝臓病だ。ウイルスによる慢性肝炎や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性肝炎のなれの果てで、炎症で死んだ肝細胞の跡に細かいケロイドがたくさんできたような状態(=線維化した状態)になる。

すると、肝臓でのエストロゲン分解が滞り、エストロゲン濃度が上昇してしまう(そのため肝硬変の男性では、エストロゲンの作用で精巣の萎縮をきたす)。結果として乳がんのリスクを高める。

かつては慢性C型肝炎などのウイルス性肝炎が多く、治療が困難で肝硬変に至ることが多かった。現在では肝炎は抗ウイルス薬によって治せるようになっている。代わりに肝硬変の原因として台頭してきたのが、NASHである。これは内臓脂肪を減らすなど生活改善で治療することができる。

いずれにしても、健康診断などで肝臓の異常を指摘されたら、放置してはならないと心得ておこう。

日本肝臓学会は今年6月15日、血液検査の項目のうち肝機能を表すALT(GPT)値が30を超えた場合を、受診を促す新たな指標に定めたと発表した。ALT値30であれば、多くの検診機関は異常と判定しない。だが、軽度の異常であっても精査し、原因に応じて適切な治療を受けることが望ましい。

肥満だと乳がんになりやすい理由も「エストロゲン」

肝臓病と同じようにエストロゲンが関与するのが、⑥肥満だ。エストロゲンは脂肪細胞でも産生されるためである。実際、過体重または肥満の人は、血液中のエストロゲン濃度が高いことが知られている。したがって肥満の高齢男性は、標準体重の男性よりも乳がんにかかるリスクが高くなる。

肥満に関しては今後、GLP-1作動薬(参考記事【世界で大流行する「やせ薬」は本当に悪者なのか】)での減量治療が一般化することが望まれる。

というわけで、乳がん患者のうち男性はたった1%と思うかもしれないが、とくに遺伝的な素因がある人に限ってみればその発生率は上がる。思い当たる人は、一度きちんと調べてみることをお勧めしたい。そのうえで日頃から肥満と肝臓の健康に注意し、定期的な検査を受けること。また、素因が無くても乳房や乳頭に異変を感じたら、迷わず受診していただきたい。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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