戦時下のキーウで反転攻勢の根源にみる「頑固さ」 現地識者が語る「領土で妥協して停戦はしない」

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ハラ氏によれば、ウクライナが妥協できない理由は、ロシアが国際法秩序を破壊し、ウクライナ人の人権を侵害していることが明らかなことだが、安全保障上の理由も大きい。

「防衛戦略センター」オレクサンドル・ハラ研究員(筆者撮影)

「クリミアはロシアが、黒海を通じてシリア、リビア、北アフリカへと外に向かって軍事力を発揮するために、つまりロシアが大国としてあるために必要だ。逆にウクライナにとってクリミアがロシアの手にあることは、シーレーンを容易に切断されることを意味する」

ウクライナにとってクリミアの重要性は、黒海経由の穀物輸出がロシアにより妨害されたことからも明らかだ。

8月下旬、ハラ氏に反転攻勢の現状をどう見ているか、改めて問い合わせると、「ウクライナ軍は通信ライン、司令部、弾薬庫、対空火器や火砲を主要な標的に攻撃を継続している。ロシア軍の地雷原や塹壕等を除去しながら、ゆっくりだが前進している」と攻勢が成果を上げているとの見方だった。

領土での妥協はない

「ウクライナ軍が防衛線を突破し、ロシア本土とクリミアを結ぶ(ロシアによる占領地である)『クリミア回廊』を断ち切ることができれば、クリミアは孤立する。ドンバス地方はロシアに隣接しているため、鉄道を破壊しても車で補給ができるが、クリミアのほうが奪還するのはむしろ簡単」と見通しを語った。

ハラ氏のロシアに対する不信感は徹底している。

「ロシアの侵略は、ウクライナの独立や国民性の否定が目的。3万人のウクライナの子供を連行し、ウクライナのアイデンティティを消滅しようとしている」

プーチン大統領を排除すれば、問題は解決するという見方も取らない。

「ウクライナ侵略をプーチン氏の戦争と言うのも間違い。戦争はロシア国民の75~80%から支持されている。

ロシアで世論調査をすると、強力な軍隊を持ったり、他国を脅迫したり征服したりできる状態がよいとする回答が多数を占める。ロシアの帝国主義イデオロギーは、自国が穏健な小国であることに満足しない。領土面で偉大でないとだめなのだ。帝国主義はロシアのDNAの一部だ」

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