中国が南シナ海で乱発させる嫌がらせの手口 フィリピンは80歳の老艦で主権を守る
妨害行為の激化は、親中派とされたドゥテルテ前政権の外交・安全保障政策をマルコス政権がアメリカ寄りに大きく転換したことと関連がありそうだ。
前政権の政策継承を公約にしたマルコス氏だが、2022年6月に大統領に就任すると比米防衛協力強化協定(EDCA)に基づき、アメリカ軍が利用可能な国内の基地を4カ所増やし9カ所にした。南シナ海問題を念頭に「領域は1インチたりとも譲らない」と宣言するマルコス氏をアメリカ政府が支える現状に、中国の対抗措置の象徴がシエラマドレへの兵糧攻めだ。
対中強硬論の台頭と沈黙する親中派
アユンギン礁周辺でのトラブルを中心にフィリピン政府は、2023年に入って8月初旬までに中国政府に35回抗議したという。
一方の中国は「中国領であることが歴史上明らかな海域にフィリピン船が侵入したため」という従来の弁明に加え、最近「フィリピン政府は過去に何度も艦船(シエラマドレ号)を撤去すると約束してきたが、果たされていない」と主張するようになった。マルコス大統領は8月9日「そんな合意は認識していないし、もしあったとすればいま破棄する」と話した。
合意があったのかどうかはやぶの中だが、フィリピン政府はシエラマドレと同時期に同様の手法で南シナ海のスカボロー礁に座礁させた海軍の老朽艦ベンゲットについて、1999年11月に中国の朱鎔基首相(当時)がマニラを訪問した際に撤去したことがある。
2001年から9年間にわたって大統領職にあったグロリア・アロヨ氏は合意を否定する談話を発表した。その前任者でシエラマドレやベンゲットを座礁させた当時のエストラダ大統領の息子らも、「父の時代にそうした約束はなかった」との声明を出した。
アロヨ氏は在任中から中国企業との癒着を指摘されてきた。ほかにも「親中派」とされていた政治家らがここにきて中国との関係については口を閉ざしている。
ドゥテルテ前大統領は2023年7月17日、中国・北京を訪れ、習近平国家主席と会談した。現職でない他国の政治家に会うのは珍しいとされる習氏は「大統領在任中に対中関係を改善するという戦略的選択をした」と称え、「今後も友好協力のために役割を果たしてほしい」と述べたとされるが、この会談についてドゥテルテ氏は沈黙を貫いている。
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