中国が南シナ海で乱発させる嫌がらせの手口 フィリピンは80歳の老艦で主権を守る

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私たちは荒天が収まるまでシエラマドレ号に6日間滞在した。その間、中国船はつねに環礁の外の南北に2隻が停泊し、威嚇するように時折400メートルほどにまで近づいてきた。中国の偵察機が上空を旋回していた。

この老朽艦はもともと、第2次世界大戦中の1944年にアメリカ・インディアナ州で建造された戦車揚陸艦(LST)USSハーネット・カウンティ(LST-821)だった。2024年で建造80年、傘寿である。

シエラマドレ号内の海兵隊員の住居スペース(2014年8月、写真・柴田直治)

ベトナム戦争中、アメリカ政府が南ベトナム政府に海軍輸送船として引き渡した。1975年にサイゴンが陥落すると、アメリカはフィリピン海軍に譲渡し、シエラマドレ(LT-57)と改名された。

フィリピン政府は1999年、シエラマドレ号をあえてアユンギン礁に「難破」させ、海兵隊員らを駐在させることで実効支配の拠点とした。中国が1995年、「漁船の避難所」との名目で、フィリピンのEEZ内にあるミスチーフ礁に建造物を構築したことに対抗する措置だった。両礁の距離は33キロメートルだ。

アメリカ軍撤退の隙を突いた中国

アメリカ軍は、フィリピンが1946年に独立した後も南シナ海に面したスービック湾に在外最大の海軍基地、中部にクラーク空軍基地を置き、インドシナ戦争の出撃拠点とした。ところが冷戦が終結し、フィリピン上院も基地協定の延長を拒んだため、1992年に両基地から撤退した。

この隙を突く形で中国がミスチーフ礁を奪取し、南シナ海に足場を築いた。ミスチーフ礁は2010年代に中国が埋め立てて整備し、現在は3000メートル級の滑走路を持つ巨大な海上軍事基地となっている。

シエラマドレ号は全長約100メートル。遠目からは対空砲を備え、レーダー塔が周囲を見渡す立派な巨艦に見えなくもないが、近づくと船体はさびだらけだ。乗船すると甲板のあちこちに穴があいていた。

「梁を踏んで歩け。でないと踏み抜くぞ」と警告された。砲台は朽ち、ドアはないか外れている。船倉は巨大なゴミ屋敷と化していた。蚊とゴキブリが大量に繁殖し、ネズミが走り回っていた。

ネズミやゴキブリが走り回っていたシエラマドレ号の船倉(同)

フィリピンは南シナ海で9つの島や環礁を占有するが、中国船がつねに監視し、近づく船を妨害するのはアユンギン礁だ。補給船を入れさせず、大規模補修を阻めば、遠くない将来に「難破船」は崩れ落ちると踏んでいるようだ。そうなれば多数の船舶でフィリピン側の接近を阻止して実効支配をめざす熟柿作戦である。

私が滞在したころでも補給船が中国の妨害で近寄れず、フィリピン空軍機が食料を投下することがあった。環礁内を素潜りして魚や貝類などその日のおかずを確保することが海兵隊員の日課でもあった。海兵隊員らは約半年で交代する。

中国は最近になり、アユンギン礁への締め付けをさらに強めている。私が訪れた9年前、監視する海警局の船舶は2隻か多くても4隻だったが、現在は大型巡視船数隻が常時周囲を回遊しているほか、民兵が乗り組んでいるとみられる漁船が数十隻の船団を組んで停泊する様子も確認されている。

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