中国が南シナ海で乱発させる嫌がらせの手口 フィリピンは80歳の老艦で主権を守る

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米中対立が深刻化するなか、アメリカ政府は2022年来、南シナ海でフィリピン軍や艦船が攻撃されれば、両国の防衛義務を定めた米比相互防衛条約(MDT)が発動されるとオースティン国防長官やブリンケン国務長官らが繰り返し明言している。

サーチライトを浴びせてきた中国海警局の巡視船(2014年8月、写真・柴田直治)

中国側の挑発行為は一触即発の危機につながりかねないため、以前にも増して耳目を惹くニュースとなっている。アメリカ、日本、オーストラリアなどの「同志国」は事案が発生するたびに中国の対応を非難し、フィリピンの立場を支持する声明を出している。

中国艦に沈められそうになった体験

アユンギン礁をめぐる中国のハラスメントは最近始まったわけではない。私は朝日新聞国際報道部で記者をしていた9年前、それを実体験した。

多くの記事を書いてきた南シナ海の領有権争いについて、実際の現場を見たいと思い立ち、この海域を管轄する自治体カラヤン群島町のユーヘニオ・ビトオノン町長(当時)の乗る漁船にカメラマンと同乗してアユンギン礁をめざした。そこで中国船による「接近拒否」の洗礼を受けた。

2014年8月1日午後6時半ごろ、私たちの漁船はアユンギン礁まで16キロメートルの場所にいた。パラワン島の港を出てから20時間ほどが経過していた。台風の接近による荒天で、行程は予定より10時間も遅れていた。

目の良い乗組員が、日の沈みかけた水平線の近くに停泊する中国海警局の大型船「3111」を見つけた。漁船とは逆方向を向き、動く気配がなかったので、夕食のカップ麺を乗組員らとすすり始めたときだった。

操舵士が「向きを変えたぞ」と叫んだ。中国船がUターンし、猛烈な勢いでこちらに向かって突進してきた。船長は「礁に入るのを阻む気だ」と言う。

6ノット(時速約11キロメートル)の漁船に対し、中国船は37ノット(同約68キロメートル)。10分ほどで漁船の目の前に割り込み、強力なサーチライトを当ててきた。「ブオー」と威嚇するように大きな警笛を鳴らす。私たちはあわてて救命胴衣を身につけ、柱やへりにしがみついた。

「ぶつけられるかも」。漁船は面舵をきり、北に進路を変えるが、中国船は執拗に追ってきた。船間が50メートルほどに迫った時、中国船は突然止まった。漁船は船長の機転で浅瀬を走り、引き潮も味方して、中国船はそれ以上進めなくなったようだった。何とか礁内に逃げ込めた。

ビトオノン町長は「これまでも何度も中国船の嫌がらせを受けてきたが、今回は沈められるかと一番緊張した。荒波のなかで民間船をここまで追い詰めるとはひどい」と憤慨していた。単なる威嚇ではなく、沈めるつもりだったのだろう。海の藻屑と消えた漁船もあると聞いた。

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