ある研究者は、「ラオスやカンボジアは決して中国依存を望んでいないが、両国に資金を提供するのは中国だけであり、中国に依存せざるを得ない、ラオスやカンボジアに中国以外の選択肢を与えるべきだ」と主張していた。
また、「一帯一路」の下で進められるプロジェクトが現地経済に貢献している部分もあり、実害は大きくなく、いわば中国との外交的なお付き合いとして「一帯一路」に参加している、との意見もあった。プロジェクトに合意しても、自国にメリットが少なければ実施されないものも多いという。
東南アジア諸国はすべて「一帯一路」に参加しているが、同時に、中国が包囲網だとして警戒する、日本の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のプロジェクトにも参加している。「グローバルサウス」にとっては、経済発展が第一であり、支援を提供する国の唱える抽象的な構想に賛同することは、外交上必要ないわば「必要経費」のようなものなのであろう。
日本の付き合い方
「一帯一路」はもはや地理的範囲も限定されず、中国による対外プロジェクトと結びつけられる、「枕詞」のような存在になりつつある。当初想定された中国と欧州とを結ぶ経済圏の構築という目標よりも、欧米を意識した「人類運命共同体」への支持を広めることがより重視されつつある。
他方、約190の国連加盟国のうち、150を超える国が「一帯一路」に参加しているが、これらの国が全面的に中国を支持している訳でもない。「一帯一路」に参加するか否かが、その国と中国との距離感を図るメルクマールでもない。
中国の「一帯一路」に対する姿勢にも変化が見られる。2019年4月の第2回「一帯一路」サミットで、習近平国家主席は、「一帯一路」を質の高いものに推し進めていく旨を述べた。具体的には、プロジェクトの建設や運営などにおいて、開放性を維持し、環境に配慮した形で行い、普遍的に受け入れられている国際基準に沿って進めていくこと等を強調した。
以後、中国は、「一帯一路」の質の高い発展を推進すると言い始めている。国際社会による「債務の罠」批判などを受け、中国なりに対応し、改善しようとしている。
また、中国は、2021年に「グローバル発展イニシアティブ(GDI)」を打ち出し、経済支援や国際協力を通じて、世界全体の経済発展に貢献すると提唱した。「一帯一路」のような2国間の取組でなく、多国間の取組のほうが国際社会に受け入れられやすいという判断があるのであろう。
しかし、GDIは開放性を謳いながら、ブロック経済への反対や真の多国間主義の推進といったアメリカ批判の要素を含んだ矛盾した内容であり、中国本位の印象がまだ強い。
中国は、「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)を、国際社会が利益を享受する国際的な公共財であると位置づける。自国の経済成長を第一に考えていた中国が、経済発展した結果として、自国の問題だけでなく地域や国際社会の共通課題に取り組もうとすることは自然な流れである。重要なことは、中国の地域・国際的問題への関与を独りよがりなものではなく、国際社会全体に裨益するようなものとしていくことである。
世界第2位の経済大国になった中国には、大国として、地域や国際社会の課題に対して相応の貢献をする責任があり、いつまでも途上国だとしてその責任を逃れることは許されない。日本は、中国の国際問題への取組を、日本を含めた国際社会に有意義なものに導いていくことが望ましい。
外国への経済支援については、中国は日本を見習ってきたところがある。「一帯一路」に関して中国と対話し、大国としての責任を説き、個別のプロジェクトの問題や透明性の欠如を指摘して改善させていくことが日本に求められている。
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