タケルたちにずっしりと重たい荷物を持たされたことが嘘のように、不思議なほど体が軽く感じた。まるで自分の体じゃないみたいだ。なんだこの感覚は。
「それはそうやで。サムは今、神様なんやから」
「うわぁ、なんだこの声、タケルか? いや、タケルは関西弁じゃなかったよな。じゃあ誰だ?」
「キョロキョロしても無駄や。ワシの姿は君には見えへんよ。ワシは今、サムの頭の中に直接話しかけてるんやから」
「頭の中に直接」って、漫画で何度か見たことあるベタなセリフすぎて信じられない。どこかに声の主がいるはずと思い周囲を見回していると、〝見えない関西弁〟が話を続けてきた。
「ここは数千年前の日本やで」
「こんな状況やのに素直にパシられて、ホンマ脳天気やね。悩みとかないの?」
「う、うるさいな! 今が悩みの真っ只中だよ。ここはどこで俺は誰なんだよ!」
「ここは数千年前の日本やで」
「す、数千年前の日本? え、どういうこと?」
「あ、言うの忘れてた。ワシの名前はサキミタマクシミタマっていうねん」
「いや、さっきの話が気になって名前どころじゃないよ! あ、でも名前は名前で気になるな。なんだよその名前、長すぎだろ」
「さっきから一人で喋って元気やね」
姿も見せないくせに腹の立つことばかり言ってくるのは気に入らないけど、今はサキミタマクシミタマだけが頼りだ。っていうか、名前が長ったらしくて言いづらいな。サキミタマクシミタマだから……「タマちゃん」でいっか。
「それよりタマちゃん、さっき言ってた『数千年前の日本』ってどういうこと?」
「誰がタマちゃんやねん! 初めてそんな呼ばれ方したわ。まぁワシとサムの間じゃ、呼び方なんてどうでもええな。サムはワタリに刺されて、肉体から魂が抜けてしまったんや」
「肉体から魂が抜けた……?」
「せや。ほんでこの時代のナムチという神様に転生したんやで」
「え、マジで!? 完全に〝異世界転生〟の一番ベタなやつじゃん。こんなことって本当にあるんだね」
「おっ、飲み込み早いやん」
「ってことはあれだ。俺が転生したナムチとかいう神様は、最強の能力を持ってて、俺はこれから無双するとかそういうやつだよね?」
俺が前の世界でできなかった大活躍への期待を口にしたら、タマちゃんのため息が聞こえた。
「はあ……残念やけど、ナムチには特殊能力は何もないよ。むしろ体力的にも神様の中で〝下の中〟くらいや」
「なんだよ、絶対にすごい能力がある流れだろ! 何が悲しくて数千年前の下の中の神様に生まれ変わらなくちゃならないんだよ」
「無駄話はこの辺にして……」
「華麗にスルーしないでくれよ!」
「サムは今、八十神(やそがみ)いう神様たちと一緒に〝ある場所〟に向かってるんや」
「八十神?」
「ナムチの兄たちやな。八十神の八十は80人いるいうわけやなくて、〝たくさんいる〟ってことやけどな。サムは今からナムチとして、さまざまな試練を乗り越えないとあかんねん。これはこの世界にとっても、サム自身にとっても大切なことやから頑張りや! 期待してるで、ほな!」
「待って、まだ聞きたいことが――」
「ナムチとして試練を乗り越えろ」。そんなざっくりとしたことだけ伝えると、タマちゃんの声は聞こえなくなった。
(9月17日の配信の次回に続く)
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