過去40年にわたり経済には重要な変化が見られた。無形経済の台頭だ。これについては拙著『無形資産が経済を支配する』で述べた。この議論とデータをすでにご存じならこの部分は飛ばしたほうがいい。そうでないなら、手短にまとめよう。
アップルの価値の相当部分は無形資産
社会の繁栄に重要な決定要因はその資本ストックだ。これは人々や企業、政府が、持続的な便益をもたらそうとして長期的に投資してきたあらゆるものだ。労働者たちが経済の筋肉なら、資本は関節、靱帯、支持器官に相当する──つまり筋肉が作用するための仕組みで、筋肉の効率性を決めるものだ。
1980年代から、世界の資本ストックは着実にシフトしつつある。昔々、企業は主に物理資本に投資した。機械、建物、車両、コンピューターなどだ。今日社会が豊かになるにつれて、ほとんどの企業投資は触れられないものに向かっている。研究開発、ブランド、組織開発、ソフトウェアだ。
アップル社を見てみよう。その時価総額は2018年に1兆ドルほどだった。その有形資産は主に建物、現金などの貯蓄だが、アップルの時価総額のたった9%だ。残りの価値の相当部分は無形資産にある。獲得に費用がかかり、劣化せず会社にとって有益だが、物理的ではないものだ。
アップル社の無形資産は研究開発から得た知識、製品デザイン、広く信頼されたブランド、供給業者との価値ある持続的な関係(物理的なサプライチェーンとアップルエコシステムを支援する開発者たちの両方を含む)、職員の企業内知識や関係、オペレーティングシステムのソフトウェア、その広大なデータリソースなどだ。
この数十年にわたり無形投資はますます世界経済に重要となった。既存データや新しい調査から無形投資を推測し、それを正確に計測しようという長期的な研究プログラムは、それが少なくとも1980年代から増大していることを示している。
そしてもっと暫定的なアメリカのデータから見る限り、無形資本の蓄積はその数十年前から始まった。2007〜2008年世界金融危機の頃には、英米などの諸国は毎年、有形資産より無形資産への投資のほうが多かった。