「無形投資」増加の一方で経済に起こっていること 今の世界は別種の経済への移行の途中にある

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主要先進国経済に見られる無形資本の着実な増加は単に金持ち世界の現象ではない。近年の中国経済急成長もまた、無形投資の急増を伴っているらしい。

無形投資の減速

さてここで、無形経済台頭における重要ながらほとんど認識されていないひねりがやってくる。21世紀最初の10年の終わり頃、対GDP比率でみた無形投資は、それまでは数十年にわたり安定的に増えていたのが、減速し始めたのだ。

当初はこの減速が世界金融危機の短期的な影響なのかどうかはっきりしなかった。金融危機は明らかに、多くの点でビジネス投資を引き下げたからだ。

信頼できる投資データをつくるには時間がかかるから、2016年に『無形資産が経済を支配する』を書いていた頃には、この減速がデータの異常か、一時的なものか、あるいはもっと深刻なものかは、なかなか判断がつかなかった。

もっと最近のデータが出てくると、この無形投資低下が一時的なものではないのがはっきりしてきた。大陸ヨーロッパとアメリカの減速は明らかで、イギリスは少しノイズが多い。この減速はまた、投資を資本サービスに変換しても見られる。

2010年以降は成長速度が減速しているし、とくにソフトウェアを除外したときにこれが顕著だ。この無形投資の減速は、これから見るとおり、それ自体が独自の問題を引き起こす。中でもそれが経済成長と生産性に与える直接的な影響はとくに大きい。

たとえ話で言えば、ブドウの果汁が発酵してワインになりつつある容器を考えてほしい。酵母が果汁の糖分をエタノールに変えると、その溶液のアルコール濃度はますます高くなる。だが、アルコール濃度が15%を超えるにつれ、酵母が不活性化して発酵プロセスが減速して止まる。

この段階には2つの重要な特徴がある。液体はいまやかつての果汁とはちがうふるまいをする。アルコールが含まれるからだ。そしてもはや発酵していないから、熱や二酸化炭素などの副産物を生み出していない。同様に現在の無形投資の状況は、以前より高い水準にあるが、その増加はずっと鈍化しているのだ。

なぜ無形資産へのシフトが重要なのか、と思うかもしれない。投資は時代とともに自然に変わるのは当然では? かつては運河に投資し、次に鉄道、そして道路、いまやインターネットに投資している。『無形資産が経済を支配する』では、無形資本へのシフトが重要なのは、無形資本が過去の企業投資の大半を構成した物理資産とはふるまいがちがうからだ、と論じた。

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