正真正銘の「論破王」孟子が実は超現代的な理由 古典の教養がないことは「致命的な弱点」になる

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本書の前半で解説される春秋戦国時代(前770~前221)の思想を例にとろう。人気漫画『キングダム』の舞台としても知られるこの時代は、思想界も乱世であり、「諸子百家」による「百家争鳴」の状態であった。

まず「斉」という国では、名宰相管仲が、経済的利益の追求と自由競争を奨励して、経済発展を遂げ、同時に軍事強国となって台頭した。利益の追求を重視する価値観は「功利」と呼ばれ、経済力と軍事力による統治は「覇道」と呼ばれた。

しかし、行き過ぎた「功利」は、弱肉強食と格差社会を生み出し、斉を弱体化させる結果となった。この「功利」と「覇道」、そしてその結末から、我々は、1980年代以降のアメリカの新自由主義と軍事覇権を連想せざるをえまい。

こうした中で、「功利」と「覇道」に代わるべき思想が求められ、老子、荘子、荀子、墨子、そして孔子や孟子等、さまざまな思想家が登場した。中でも、孟子の思想は、極めて現代的で興味深い。ちなみに、孟子は、百家争鳴の当時にあって、向かうところ敵なしの天才的な論客だったらしい。正真正銘の「論破王」だったというわけだ。

その孟子は、「覇道」に対抗して、「王道」を唱えた。著者の大場一央氏によれば、「王道」とは、まずは「徹底した民富育成」のことであり、最終的には、自律した道徳心のある「士」を育成することであった。

仁の政治である王道政治が実現されれば国土のすみずみまで人々が住み着いて共同体を作る。この共同体では人々がみずから働き、みずから人間関係を作っていくので、いきおい強い愛郷心ができる。これまでどこへ行っても食い詰めていた人々は、自分の故郷を文字通り死ぬ気で守ろうとするし、生活を与えてくれた国家を守ろうとするだろう。そうした国民のいる国は非常に強く、国民の積極的な参加によって敵国の侵略から国を守ることができる。(『武器としての「中国思想」』67頁~68頁)

孟子の「王道」は西洋の「共和主義」

このような孟子の思想は、吉田松陰にも大きな影響を与えたものであり、その意味では、明治維新の原動力となった思想の一つと言える。

だが、それ以上に注目すべきは、大場氏が解説する孟子の共同体主義的な思想は、西洋思想の伝統における「共和主義(republicanism)」そのものだということである。

共和主義とは、古代ギリシャ・ローマに端を発し、今日にまで強い影響を及ぼしている思想である。アメリカの建国理念はこの共和主義であるし、かの有名な政治哲学者マイケル・サンデルの思想のベースも共和主義である。新自由主義によって、拝金主義が蔓延し、格差が拡大して社会が荒廃した現代アメリカで、共和主義の伝統が思い出されようとしているのである。それは、「功利」と「覇道」の行き詰まりに際して、孟子が「王道」を唱えたのと、まるで同じではないか。

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