あまりに非科学的!中国の水産物輸入停止の思惑 日本は大人の国として冷静な態度で臨むべきだ

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日本は中国の「規制」にどう対応するか

少し話が変わることをご容赦いただきたい。それは半導体の話だ。

今年の5月、中国がサイバーセキュリティ上の問題があるとしてアメリカ・マイクロンのメモリーの、中国国内のインフラ設備での使用を中止したのは記憶に新しい。また、中国は今月8月にLEDやパワー半導体等で使用される、ガリウムとゲルマニウムの輸出を規制するとした。

これは明確に、アメリカへの対抗措置だった。昨年、アメリカは半導体関連機器やスーパーコンピューター関連品目について、中国への輸出を規制した。同時に、マイクロンのライバル会社であるYMTC(長江メモリ)を禁輸リストに入れていた。アメリカは、さらにひもを緩めることなく、AIなど高度産業領域の中国企業への投資すら厳しく禁じようとしている。

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この半導体の例を引いて、私が述べたかったことは、半導体であれ表面的には「サイバーセキュリティ」や「安全性の問題」としているが、完全に政治問題にほかならないことだ。皮相的に技術のようでいて、本質は政治。

以前から国家間の貿易問題は政治問題だった、といえなくもないが、このところは露骨で誰もがわかるようになった。半導体だけではなく、水産物についても、冒頭で私は非科学的な態度を嘆いてみせたが、結局は安全性というよりも相手国をダシに国民感情を煽る側面のほうが大きい。

話を戻せば、中国圏への水産物輸出の919億円はきわめて大きい。関係者のダメージは計り知れない。それと同時に、日本の輸入総額は2022年で約100兆円ある。だから、ミクロなレベルでは大ダメージでも、マクロなレベルでは大ダメージとまでは言いにくい。

そこでさっそく政府が支援を打ち出したように、中国圏に輸出するはずであった水産物については他国への販売ルート開拓支援が考えられるだろう。さらに、日本国内では、これまで中国圏から「買い負け」していた分、日本消費者が支援の意味でも購入すればいい。少なくとも、先に示した通り、水産物は中国からも輸入している点を忘れてはならない。

中国はメンツの国だから、規制をかけて、まったく何もしないとは思えない。ただ13億人の民を食わせる必要があり、中長期にわたって輸入禁止の愚を続けるとも思えない。それは半導体材料のガリウムとゲルマニウムの輸出規制で見られる「相手国をビビらせる、けれど、そこまで深刻な事態は引き起こさない」態度と似ているかもしれない。

繰り返す。水産物の中国輸入停止はダメージであるのは間違いない。しかし、これこそ影響を最小限化するために、日本政府や国民が協力しあうタイミングだろう。日本は大人の国として冷静な態度で臨もう。

坂口 孝則 未来調達研究所

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さかぐち・たかのり / Takanori Sakaguchi

大阪大学経済学部卒。電機メーカーや自動車メーカーで調達・購買業務に従事。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。製品原価・コスト分野の分析が専門。代表的な著作に「調達・購買の教科書」「調達力・購買力の基礎を身につける本」(日刊工業新聞社)、「営業と詐欺のあいだ」(幻冬舎)等がある。最新著は「買い負ける日本」(幻冬舎)。

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