『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実(Inside Job)』--世界金融危機の生きた勉強《宿輪純一のシネマ経済学》

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 ところが、米国では金融危機になっても、“逆に”政府から財政を悪化させるほどの多額の金額の援助がなされ、結果的にその援助が関係者の懐に入ったようだと、本作品では説明している。
 
 真偽のほどはわからないが、そういった行為全体が“詐欺”のようだと本作は訴えている。

本作は多数の関係者へのインタビューを積み上げている。さすがに本当のキーパーソンであったグリーンスパン前FRB議長、ポールソン、ルービン、ガイトナーら歴代財務長官をはじめとした核心の方々はコメントを拒否し、彼らについては、議会証言の再構成を行っている

実際のインタビューに出てきた“責められるサイド”としては、世界トップクラスの経済学者のフェルドシュタインやハバード、同じく経済学者でFRBの理事にもなったフレデリック・ミシュキン。逆サイドは、フランスの財務大臣ラガルド、IMF(国際通貨基金)のトップのストロスカーン。解説者として、かつては通貨危機を先導したソロスと、筆者も東京やロンドンで一緒に仕事をしたFinancial Timesのジリアン・テッドも登場する。彼らの説明は大変わかりやすい。

そして、今後のオバマ政権の金融関係の運営や政策については、実はキーパーソンのメンバーが変わっていないため、大きな変更はないとしている。その結果、積み上がった米国の財政赤字が、個人的には次なる大きな国際経済問題となりつつあるのではないかと考える。米国自身も、現在2度目の量的緩和(QE2)を実施し、国債価格の管理と米ドルの動きに最大限の気を使っている。

個人投資家にとっても勉強になる。自分で理解できない投資商品は絶対買わないこと、同じく理解できない金融契約は絶対しないこと、国民としては、政府(財政)の運営をきちんと見張ること(日本も米国同様、大変危うい状況)。
 
 また、そもそも、そんなにうまい話は世の中にあるほうがおかしいし、“強欲”になりすぎることは、まず“人”として問題である。

しゅくわ・じゅんいち
博士(経済学)・映画評論家・エコノミスト・早稲田大学非常勤講師・ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」代表。1987年慶應義塾大学経済学部卒、富士銀行入行。シカゴなど海外勤務などを経て、98年UFJ(三和)銀行に移籍。企画部、UFJホールディングス他に勤務。非常勤講師として、東京大学大学院(3年)、(中国)清華大大学院、上智大学、早稲田大学(4年)等で教鞭。財務省・経産省・外務省等研究会委員を歴任。著書は、『ローマの休日とユーロの謎』(東洋経済新報社)、『通貨経済学入門』・『アジア金融システムの経済学』(以上、日本経済新聞出版社)他多数。公式サイト:http://www.shukuwa.jp/、Twitter:JUNICHISHUKUWA、facebook:junichishukuwa ※本稿の内容はすべて筆者個人の見解に基づくもので、所属する組織のものではありません。

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