消費者物価指数の上昇率が低下してきていることだけを見れば、上昇率を高めるために金融緩和が強化されてもおかしくない。4月30日の金融政策決定会合では金融政策の変更はなかったが、追加的な緩和を予想するエコノミストも少数ながらいた。しかし、原油価格下落の影響がなくなるまで様子を見るという日銀の決定は妥当だろう。
黒田総裁は、4月19日にEconomic Club of Minnesotaで行った講演で、マネタリーベースの対名目GDP(国内総生産)比は、米国は20%程度だが、日本はすでに約55%にまで達していることをあげて、「日本銀行による資産買入れの規模は、米国のLSAP(Large-scale asset purchases)と比べても、これを大きく凌駕する」と述べている。
「2年程度」という目標は取り下げるべき
マネタリーベースの名目GDP比は、すでに2011年末には25%近くに達していたので、量的・質的金融緩和が行われる前の段階で、日本は米国を上回る緩和を行っていたとも言える。
量的・質的金融緩和導入後は、マネタリーベースの名目GDP比は急速に上昇。さらに2014年10月の追加緩和では、マネタリーベースを年間約80兆円のペースで増やすことにしており、現状のままの政策でも15年末には、マネタリーベースの名目GDP比は65%を超える見通しで、副作用の大きさが懸念される状況だ。
2%の物価上昇率の達成時期が後ズレしているからといって、金融緩和を強化していくのでは副作用の懸念がさらに拡大してしまう。現状からさらにマネタリーベースの増加を加速することには慎重であるべきだ。2%の消費者物価上昇率達成を2年と期限を区切ったのは、企業や消費者の期待(予想)に働きかける効果を大きくしようとしたためだっただろう。
日銀が当初主張した通りの筋書きではないが、消費増税をきっかけに、消費者は物価が上がるという意識に変わっており、目的は十分達成されている。「2年程度の期間」という達成時期の目標は、どこかで取り下げる方が良いのではないか。
日本銀行の金融緩和姿勢が後退したと市場に受け取られた場合、為替市場で円高が進む懸念を指摘する向きがある。しかし、追加緩和見送り後の為替レートの動きを見れば、日本側の事情よりは、FRBの金融政策の予想など米国側の事情に大きく左右されていることは明らかだ。FRBは年内には利上げを実施し円安はさらに進むと予想されている。米国の利上げのタイミングを見計らって、物価上昇率達成時期の表現を調整すれば、為替の急速な円高をもたらすこともないのではないか。
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