米国の学者8人、「私なら70年談話をこう語る」 アジアの平和のために何を語るべきか

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<星 岳雄(ホシ・タケオ)>

星 岳雄 ●スタンフォード大学 ショレンスタイン・アジア太平洋研究所日本プログラム・ディレクター、ビジネススクール教授、フリーマン・スポグリ国際研究所シニアフェロー。専門分野は金融論、マクロ経済学、日本経済論

終戦から70年が経ちました。日本の植民地支配と武力による侵略が先の大戦を引き起こし、多くの国々とりわけアジアの近隣諸国の人々の甚大な苦しみを与えました。深い反省と心からのお詫びの気持ちを表明するとともに、戦争の犠牲となったすべての方々に謹んで哀悼の意を表します。

先の大戦は、日本の外交の失敗によるものです。しかし、国際社会は、日本に2度目のチャンスを与えました。平和維持のために尽力する国々は、日本をメンバーの一員として迎えてくれました。その寛容に対し、感謝の意を表すものであります。日本は失敗から学び、過去70年、そうした国々に支えられて平和と繁栄を築きました。

私もまた、首相としての失敗を経験しています。2006年から2007年に、私は首相の任に就きましたが、この最初の経験は大いなる失敗に終わりました。しかし日本人は私に2度目のチャンスをくれました。私は失敗から学び、日本に再び活力を呼び起こすための改革を実行しました。日本再生は端緒についたばかりであり、今はその手を緩めるときではありません。さらなる改革を推進していく必要があります。

世界平和と繁栄に対し貢献せんとする日本の努力についても同じことが言えます。私たちは、現状に甘んずるべきではありません。歴史的な真実に向かい合い、失敗を忘れず、過去の罪を繰り返さない決意を新たにし、世界平和の目標に向け、他の平和を愛する国々と協働していかねばなりません。

過去70年間において、世界の平和に対する日本の貢献は、大抵の場合において受動的なものでした。日本は戦後、日米同盟に頼り、自衛のための最低限の能力を維持し、戦争の可能性を考えたことすらありませんでした。日本は、平和を乱さないことによって平和に貢献したのです。しかし、このような平和主義には限界があります。それどころか、敵対行為から自国を守る能力が不十分であることが、暴力による紛争解決を謀る組織や国家を助長することで、世界の不安定化につながる可能性すらあります。世界平和に意義深い貢献をするため、日本は積極的平和主義を実践し始める必要があります。

積極的平和主義を、軍国主義の再来と誤解する人たちがいますが、これはまったくの見当違いです。我が国民は、軍国主義の残酷さが、アジア太平洋全域に甚大な苦しみを引き起こしたことを承知しています。こうした道を日本が選ぶことは、決してありえません。そのようなことをすれば、過去70年間に築いたすべてが失われ、国家そのものが排除されることでしょう。

積極的平和主義を追求するため、我が国は世界平和の維持により密接に関与していきます。目指すところは、すべての国家の安全が平和を愛する国々により集団的に守られる世界です。いかなる国家も、陸、海、空軍、あるいはその他の自衛のための軍事力をも自前で維持する必要のない世界です。悲惨な戦禍の後に、世界中の平和を愛する人々が目指してきた理想です。我が国は世界で最初の軍事力を持たない国となることを誓いましたが、いまもう一歩先に踏み出す時に来ています。国際的努力に貢献する責任があるのです。

積極的平和主義の実践により、国際的平和維持のための軍事活動においても、日本の存在感は必然的に高まりますが、最終的な目標は、あくまでも日本や他の平和を愛する国々が自前の軍隊を持つ必要をなくすことです。誤解の種を取り除くため、日本は過去の失敗を思い起こし、アジアの近隣諸国の人々の苦しみを忘れることなく、これまで以上に世界平和へのコミットメントを明言しなければなりません。

私たちは、永久に、国家の主権としての戦争を否定します。いかなる国家であれ、国際的な紛争解決のために武力や暴力を用いることがあってはなりません。終戦70周年にあたり、我が国がこの理想に向かって、世界平和のため努力する国々と協働し続けていくことを誓います。

次ページイ・ヨンサク アジア太平洋研究所研究員
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