角川辞め「香川」で予約制の古書店開いた彼の境地 予約があれば店を開けるスタイルを貫く理由
「予約を取ってまで来る人は、お客さんも個性的な人が多いですね。アーティスト、編集者、映画監督などのクリエイティブ系の人も来ますが、そうでない人も癖が強い。
クリスマスに来て、また次のクリスマスの予約を入れていくタイプの人たちがいるんです。クリスマス前に恋人ができるとキャンセルされる。喜ばしいことですが、僕の方は予定が白紙になってしまう。ひとりでクリスマスを過ごさないようにするための、保険ですよね。こっちはいい迷惑です(笑)」
予約を取るということは、その人のために時間と空間を確保することであり、キャンセルされたときのリスクもある。しかし藤井さんはそのリスクも受け止める。
「結局はその人が職業を通して、何をやりたいかということでしょう。例えば松浦弥太郎さん、内沼晋太郎さん、ほかにも有名な本屋さんはいますが、それぞれの人が本屋を通じてやりたいことがあるわけです。各人それが面白いと思っているからやっている。
僕は『なタ書』の店主として、本を探している人と会って話すことが面白いと思うから、そうしている。その結果として、予約制を続けたり人生相談や街案内を受け付けたりしているだけです」
藤井さんが「古書店を通じてやりたいこと」に、とことん忠実であるが故に行きついた営業スタイルは、前例がなくとも人の心をつかみ、彼を唯一無二の存在にしている。
「東京バージョンの自分」とは、いつも対峙している
「Uターンして良かったか」と問うと、藤井さんは目を細めてしばらく考え込んだ。
「前職の出版社に勤め続けていたら、この年になれば相当な年収があったはず。過去に捨てた『東京で働き続けた未来の自分』は、つねに意識しています。
その度に、今は東京バージョンの自分よりも、面白く生きられているんじゃないかと思いますね。ただ困ったことにこの仕事も安定してきて、東京に居たときと同じように『先が見える』状態になってきてしまって……」
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