そのうち太郎さんは、認知症が進行し、近所を徘徊するようになりました。妹2人が頻繁に様子を見に訪れているとはいえ、それぞれ離れた場所で暮らしています。徘徊となると本人の危険度が増すうえに、近所に迷惑がかかる可能性もあり、これ以上放っておくわけにいきません。
妹2人は、太郎さんに施設に入ることを勧めるも、太郎さんは「施設には行きたくない」の一点張りです。それならばと、妹2人のどちらかが太郎さんを引き取り、面倒を見るという流れになりました。
仲がよかった3人の間に、急に暗雲が垂れ込めたのは、まさにこのとき。どちらかが太郎さんを引き取るという決断には、介護の負担のみならず、お金の話もついてまわります。
妹2人も高齢で、話し合いに決着がつかないうちに上の妹の具合が悪くなり、入院することになってしまいました。
こうした体調や状況の変化も加わり、3人の話し合いはもめにもめ、ついに決着を迎えることなく、関係性が壊れてしまいました。太郎さんはそのあと、施設に入る以外の選択肢がなくなり、成年後見人を立て、渋々施設に入居することになりました。
いくら仲のいい家族であっても、差し迫ったタイミングでの話し合いは、冷静な判断ができないことがあります。とくにお金が絡むときは要注意で関係性が壊れてしまうことがあります。
もう少し余裕のある段階で話し合いができていたら、また違った選択肢や考えが生まれていたかもしれませんが、大切なことを急いで決めるというのは、本人にとっても家族にとっても、いい方向に物事が進まないリスクがあります。
妻の介護の行く末まで考えて逝った夫
一方、自分の意思と、残される家族のことまで考えた無理のない計画をはっきりと周囲に伝えることで、家族も安心して最期を迎えられたケースもあります。
妻が脳梗塞塞を患い、意思疎通が図れなくなったことをきっかけに、数年前に夫婦で施設に入居した加藤映司さん(仮名・92歳)。自身も高齢で、1人で妻の介護をするのが難しいと判断し、夫婦一緒に施設に入ることを決めました。
ところがその後、映司さんが前立腺がん末期と発覚し、がん末期に対応できる施設ということで、私のクリニックが運営する緩和ケア専門施設「メディカルホームKuKuRu」に、夫婦一緒に移って来られました。
痛みや苦しさを和らげる緩和ケアを、病院とほぼ同じように最期までできる施設が限られているためです。
映司さんが、自身の終末期の過ごし方について考える段階に来たとき、真っ先に考えたのが、残される妻の今後についてでした。映司さん夫婦には息子さん(71歳)がいますが、息子さんも高齢で、自分亡きあと、妻の面倒を見るのは難しい状況です。
そこで映司さん、「自分が先に死んでも、妻を安心して預けられる場所を探したい」と希望されていたようです。息子さんに「夫婦一緒に入ることができて、最後まで一緒に過ごせる施設を探してくれ」と頼んで見つけてもらったのが、がんの緩和ケアにも対応した施設「KuKuRu」でした。
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