民間会社を戦場に近づける「経済効率」と「技術力」 「ワグネル」のような戦争請負会社が世界を脅かす

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19世紀に軍事制度が国家の独占になる前、西欧では傭兵や私企業が多く使われていた。19世紀のマルクスは肺結核で徴兵免除になっているが、18世紀のヘーゲルやカントは、徴兵を受けたか。その答えはノーである。

それは、ヨーロッパで徴兵制が普及したのは、19世紀初めのフランスのナポレオンによる徴兵制の採用以降のことだからだ。ナポレオン以降、徴兵による国軍の力が増大し、傭兵や民兵といったものは次第に廃れていく。

アダム・スミス(1723~1790年)の「夜警国家論」(国家は夜警だけでよく、積極的に国民の仕事に介入しないという理論)ではないが、18世紀まで国家は軍にしろ、警察にしろ、道路建設にしろ、それほど積極的に取り組んでいたわけではない。おおかた民兵組織や民間警察組織が活躍していた。今のようなパスポートや出生届けというのも、おおかた19世紀になって生まれたものである。

もちろんその時代が、のどかであったわけではない。インドのイギリス傭兵セポイのように傭兵を雇うか、東インド会社のように企業が自ら兵隊を持つかして、軍事的問題を解決していたのだ。そのほうが当時の絶対王政国家も安上がりであったのである。

肝心な徴税ですら、地方の豪族や時には盗賊に請け負わせ、彼らを徴税官に任命していた。もちろん、時に彼らがお金をネコババしたり、反乱を起こしたりしたので、つねに注意しておかねばならなかったのである。

私企業としての軍

16世紀にイタリアのニッコロ・マキアヴェリ(1469~1527年)は『君主論』の中で、こう述べている。

「傭兵軍と外国からの援軍は役に立たず危険である。傭兵軍に国家の基礎を置くなら、その者は決して堅固でも安全でもないであろう。なぜなら、そのような武力はまとまりがなく、野心にあふれ、規律を欠き、信頼が置けず、味方の中では勇敢だが敵の前では臆病だからである。そして神を恐れず、人に対しては信義を守らない」(『君主論』森川辰文訳、光文社古典新訳文庫、12章)。

まさに前述したロシアのワグネル・グループのプリゴジンの例を引くまでもなく、傭兵という味方は時に敵になることがあった。とりわけ20世紀資本主義の産業として戦争請負会社が登場してくると、地獄の沙汰も金次第という現象が起こる。

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