日大林理事長と岸田首相「マイナス会見」の共通項 2つに見られる要因「危機意識」の弱さが露呈

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(1)会見の内容が具体的な方針を示せていない

このケースでは、ステークホルダー(利害関係者、この場合は国民や自治体)に十分な説明を行うことが不可欠であるにもかかわらず、ポジションペーパー(問題発生から現在までの経緯、調査で判明した結果、および今後の対応方針を明確にした資料、もしくはそれに代わるもの)すらない。

中身を充実させたいのであれば、8月8日に開いた総点検本部の結果の公表を待ってからでもよかった。

(2)責任者(岸田首相)が前面に出てくるのが遅い

問題が大きくなるまで、所管する河野デジタル相に丸投げしてきた感が強い。デジタル化に邁進する河野デジタル相と岸田首相との間に温度差も感じられ、誰が総責任者なのか、窓口も一本化できていない印象を与え続けた。

今頃になって「私自身先頭に立ってやっていきたい」というのでは、あまりに遅い。

(3)誠実さに欠ける

冒頭、陳謝からスタートしたのは日大と同じだが、「普及の進め方について瑕疵はなかった」と述べた点は反発を招く。瑕疵があったからこそ、別人とのひも付けミスが後を絶たない、とは国民の多くが感じている。

「危機管理広報」5つのポイント

こうして考えれば、メディアを通じ、経緯や対策などを示す場となる記者会見には、冒頭で述べた3つを含め、以下の5つの要素が重要になる。

① 記者会見を開くまでのスピード=追い込まれてからでは遅い
② 情報開示度の高さ=不透明さは「隠蔽」との疑念を生む
③ 誠実な態度=記者や「世間」を敵に回さない、「対応は適切だった」とか「瑕疵はなかった」などと開き直らない
④ 事実関係の把握と対策の確定=調査を急ぎ事実を詳細に把握したうえで、どうけじめをつけるか対策を(最低でも方向性を)決める
⑤ 自衛に走らない=腹をくくる、当事者意識を持つ

筆者は、日大の林理事長らによる会見、そして、岸田首相のマイナンバーカードに関する会見ともに、上記のいずれもが不十分という共通項があったと感じている。

事件や事故、不祥事やトラブルは、気をつけていても起きてしまうことがある。筆者が身を置くラジオ業界でも、出演者の失言が思わぬ波紋を広げるケースがある。そしてその多くは、生放送であるため事前に避けようがない。

思いがけず問題が生じた場合、事態収拾には「危機管理広報」がいかに大事かを思い起こしてほしい。そして、記者会見や職場内で報告会などを開く際には、本稿で挙げた記者会見を「反面教師」や「他山の石」として対処していただけたらと思う。

清水 克彦 政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師

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しみず かつひこ / Katsuhiko Shimizu

愛媛県生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。在京ラジオ局に入社し政治・外信記者。米国留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。著書は『日本有事』(集英社インターナショナル新書)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)など多数。

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