日大林理事長と岸田首相「マイナス会見」の共通項 2つに見られる要因「危機意識」の弱さが露呈

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今回の林理事長らの会見は、質問の打ち切りこそなかったものの、部員の申告を受け、警察関係者に相談した件や、7月6日、日大側がアメフト部の寮から錠剤や植物片を見つけ、部員に自首を勧めた件で、会見直後から、警視庁側が確認している事実との食い違いも表面化している。

この先、薬物の入手経路などが判明すれば、事件はさらに広がりを見せるかもしれない。そうすれば、林理事長らは再度、記者会見を開かなければならなくなるだろう。

振り返れば、林理事長は、理事長に就任して間もない2022年7月、芥川賞と直木賞の選考委員を務めた際、窪美澄さんの『夜に星を放つ』を直木賞に選んだ際、「困難なテーマから逃げなかった」と、選考理由を語っている。

今は、日大のトップとして批評される立場にある。今度は、林理事長自身が何事にもひるまず、すべての事実を明らかにし、「理事長は逃げなかった」と評価を高め、日大のイメージ回復につなげることが求められる。

岸田首相の会見、失敗の要因

マイナンバーカードをめぐるトラブルに関する岸田首相の記者会見も、「危機管理広報」としては、お粗末というほかない。

岸田首相は記者会見で、来年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化させる方針について、「マイナンバーカードと一体化した保険証を持っていない人すべてに資格確認書を発行する」「資格確認書の有効期限は5年を超えない期間とする」などと述べた。

これが、「予定どおり健康保険証を廃止する」、もしくは「皆さんの不安を払拭するため、私の責任で一体化を延期する」という記者会見なら理解できる。

しかし、岸田首相は、国民がもっとも知りたいと思っている「健康保険書を廃止するのか、それとも廃止を延期するのか」については明言しないまま、一体化の予定はそのままに、資格確認証という“オプション”を示した。それも、希望すればマイナンバーの利用登録を解除して、資格確認書を使えるようにするというのだ。

これでは、国民や自治体はさらに困惑する。第一、マイナンバーを推進する意味が薄れ、不安や「もやもや感」が最大5年も続くことになる。

しかも、岸田首相は政府による普及の進め方について、「瑕疵があったとは考えていない」と主張した。政治ジャーナリストの後藤謙次氏はこの会見の印象を、「何が言いたいのか曖昧で、国民の不安を払拭できないまま終わった」と語る。

記者会見は、事態収拾に加え、ピンチをチャンスに変える機会になる。マイナンバーカードに関する会見でいえば、これまでのミスを認め、「一体化における問題点を明らかにして予定通り進める」と述べて頭を下げるか、あるいは「一体化の時期を1年延期する」と発表するか、であれば、岸田政権の誠実さを広く社会に示す好機となったはずだ。

しかし、この日の記者会見は以下の点で「不合格」だったと筆者は見る。

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