80歳超の店員さんも「八戸にある弁当屋」の正体 介護の新潮流「利用者が働く」デイサービスの凄み

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「その場合は、お客様に販売するお弁当ではなく、自分たちが食べる昼食の盛り付けからやってもらうようにしています。まずは失敗しても大丈夫なところでチャレンジしてもらうと、ご本人も気楽にできるし、こちらも得手不得手の見極めができます。そうしてご本人の希望を尊重しながらも、適材適所に促していく配慮は欠かせません」(中村さん)

昼食のお味噌汁づくりも仕事の1つ。調理中、危ないときだけ職員が手助けする(筆者撮影)

また、車椅子の利用者の場合、どうしてもできる仕事が限られてしまう。リハビリのためには、車椅子から降りて動くことも大切だが、立ちながらの作業は転倒のリスクが生じる。

「ならば、リスク自体をなくせばいい」と思いついた中村さん。床に座れば転倒しないと考え、「床拭き」の仕事をお願いしてみると、ご本人は張り切って磨いていたそうだ。

「その方は自分ができることが増えたせいか、表情も雰囲気もどんどん明るくなって、服装もおしゃれになっていきました。最初は元気がなくても、ここに通ううちに皆さん、はつらつとしてくるんです。あまりに活発に動いているので、外部から来たお客様が、介護職員と利用者さんを間違えたこともありました(笑)」(中村さん)

重度のうつが治り、一般就労に移行した人も

利用者たちが単に介護を受ける側ではなく、働き手として「与える側」になることの効果は表れてきている。

その一例が、認知症状があった高齢の利用者だ。最初に参加したときは物盗られ妄想などがあり、よそよそしい態度だったが、店頭での接客を始めて3カ月後には被害妄想がなくなり、ほかの利用者や職員も引っ張っていくリーダー的存在になった。

また、重度のうつを患い、障害認定を受けていた50代の利用者も通い始めて数年でうつが治り、一般就労に移行したケースもあった。

「後者の方は、自分よりも大変な状況にある高齢者さんが一生懸命働く姿を見て、『自分にも何かできることはある』と、希望を持てたのかもしれません」と、同施設を運営する池田介護研究所・代表取締役の池田右文さんは語る。

なぜ、このような仕事に特化したデイサービスを設立したのか。

「発端は、畑で収穫した大根を利用者さんの声で商品化したことがきっかけだった」と池田社長は話す。

同社が2014年に設立した1つ目のデイサービス、「かなえるデイサービスまる」で農作業を始めたところ、翌年に100本以上もの大根を収穫できた。すると、利用者から「こんなにたくさんの大根、食べきれないから漬物にしないか?」と提案があったのだ。

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