人間爆弾「桜花」と新幹線0系、その数奇な関係 殉職したはずの「発案者」、実は生きていた

拡大
縮小

だが大田は、1951年を境に、ふっつりと関係者の前から姿を消した。「闇屋どうしの争いに巻き込まれて殺されたのだ」という噂が流れたりもしたが、大田は戸籍を失い、「横山道雄」と名を変え、年齢を偽り、新たに築いた家族にさえ長いあいだ自らの正体を明かさずに、1994年まで生きたのだ。

『カミカゼの幽霊』(小学館)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

私は、偶然に出会った大田の遺族を通じてその後の大田の数奇な生き方を知り、取材を重ねて今年6月30日、『カミカゼの幽霊』(小学館)という本を上梓した。大田はなぜ、「死人」となって生き続けなければならなかったのかを、桜花を積極的に採用した海軍上層部の責任とともに解き明かそうとした一冊である。

桜花の発案者と新幹線0系の邂逅

戦後の大田の足取りを追ってみると、ときどき新幹線を利用した形跡がある。大田はその車両が、空技廠で桜花の採用を談判したときのあの技術者が手がけたものだと知っていただろうか。もし、戦後どこかで三木と大田が再会していたら、どんな会話が交わされただろうか。

この記事の画像を見る(12枚)
「鉄道最前線」の記事はツイッターでも配信中!最新情報から最近の話題に関連した記事まで紹介します。フォローはこちらから
神立 尚紀 写真家・ノンフィクション作家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

こうだち・なおき / Naoki Koudachi

1963年、大阪府生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。1986年より講談社「フライデー」専属カメラマンを務め、主に事件、政治、経済、スポーツ、災害等の取材に従事。1995年、戦後50年を機に戦争体験者の取材を始め、以後、インタビューした旧軍人、遺族は500人を超える。1997年よりフリー。著書に『カミカゼの幽霊』(小学館)、『太平洋戦争の真実 そのとき、そこにいた人々は何を語ったか』(講談社ビーシー)、『祖父たちの零戦』(講談社)、『特攻の真意~大西瀧治郎はなぜ「特攻」を命じたのか』(文春文庫/光人社NF文庫)、『証言 零戦』シリーズ全4冊(講談社+α文庫)などがある。NPO法人「零戦の会」会長

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT