10年で売上2倍!「漢方薬」がいま受け入れられる訳 医薬品不足や健康志向が追い風、一方で誤解も

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漢方薬は飲み方も大切だ。

よく使用されるエキス剤は複数の生薬を煎じた液を乾燥させて粉末化したもので、いわばインスタントコービーのようなものだ。お湯に溶かすことで、漢方薬特有の香りが出て、効能も上がると考えられている。

風邪のひき始めで、寒気と関節痛が強い時期に、麻黄湯や葛根湯、麻黄附子細辛湯を服用する際には、湯に溶いて飲むのがポイントだ。

対して、胃腸炎で五苓散(ごれいさん)を処方された場合、嘔気(吐き気)が強いときには冷服といって、一度湯に溶かしてから冷やして少しずつ口に含むことが勧められる。漢方薬は抗がん剤の副作用の緩和にも使用されるが、嘔気が強い場合は凍らせて少しずつ舐める場合もある。

漢方薬にも副作用はある

漢方薬は「自然のものからできる生薬なので安全」というイメージがあるかもしれないが、特に一般医薬品として漢方薬を服用する場合、副作用には注意が必要だ。

よく知られている副作用では、小柴胡湯(しょうさいことう)による間質性肺炎(免疫が過剰に活性化して自身の肺を攻撃する病気)、黄芩(おうごん)を含む漢方薬による肝機能障害などが挙げられる。

近年、ダイエット目的で使用されることの多い防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)も黄芩を含有しており、長期的に使う場合は血液検査を受けることが望ましい。

桂枝(けいし)や人参(にんじん)・黄耆(おうぎ)による湿疹、婦人科でよく処方される加味逍遙散(かみしょうようさん)などに含まれる山梔子(さんしし)は、5年以上内服を続けると腸管膜静脈硬化症(腸の血液の流れが悪くなり、腸が炎症を起こす)を発症することがある。

甘草(かんぞう)に含まれる成分は、副腎のアルドステロンというホルモンに類似した作用を示し、むくみや高血圧を発症することもある。麻黄(まおう)の有効成分のエフェドリンは、動悸や排尿障害を生じることがある。

漢方は西洋医学と対立するものではなく、補完的な働きをする診療である。体全体のバランスが整った状態である「中庸(ちゅうよう)」を目指す漢方は、病気の生物学的なメカニズムに対処するのが得意な西洋医学と組み合わせることで、最良の医療を提供できる。

先人から受け継がれてきた漢方医学を上手に利用して、日々の健康管理に役立ててほしいと思う。

小林 千春 ナビタスクリニック川崎 内科医師

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こばやしちはる / Chiharu Kobayashi

2007年、東京大学医学部卒。同医学部附属病院、慶應義塾大学大学院(日本学術振興会特別研究員)、国立がん研究センター東病院にて血液腫瘍の臨床と研究に従事。2014年よりナビタスクリニック川崎にてプライマリ・ケアに携わる。北里大学東洋医学総合研究所にて研修を受け、2023年より小金井つるかめクリニック漢方外来を併任。西洋医学と東洋医学のバランスの取れた診療を目指している。日本内科学会総合内科専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本臨床漢方医会漢方家庭医、医学博士。3児の母であり、育児にも奮闘中。

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