「円安と実質賃金下落」日銀が堪え忍ぶ2つの嵐 日本の賃金統計も為替を左右する材料となる

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一方、円安や資源高による物価上昇の機運があるからこそ、春闘で30年ぶりの上昇率が確保されたのも事実だろう。

総合すれば、日銀は当面「金融緩和やそれに伴う円安、結果としての実質賃金下落に目をつむりながら、名目賃金がキャッチアップするのを座して待つ」という局面が想定される。2023年の春闘の仕上がりは、そうした理想シナリオの兆しというのが日銀の基本認識である。

しかし、2023年の春闘は4%台のCPI(消費者物価指数)上昇率を参考に展開されたという経緯がある。これが半分の2%台になる2024年の春闘は必然的に熱量が下がってくることが予見される。

みずほリサーチ&テクノロジーズ(RT)の予測によれば、2024年の春闘賃上げ率は3.2%(ベースアップ分1.4%)、2025年は2.8%(ベースアップ分1.0%)と近年の日本としては高い伸びを維持できそうであるものの、鈍化傾向が示されている。

2024年の賃上げは期待薄

もちろん、物価上昇率も下がってくるので実質賃金が一方的に下がるわけではないが、実質賃金に関しても「2023年後半におおむね前年比ゼロ%近傍となるが、2024年に入ると政府による物価高対策の縮小・終了に伴う反動により物価上昇率が再び高まることを受けて小幅なマイナスに転じる」とみずほRTは予測する。

程度の差こそあれ、「いつも通りの日本」に戻っていくというのは多くの市場参加者が想像するシナリオと一致するのではないか。

先般の日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)修正を受けて、「次の一手」としてのマイナス金利解除に大きな注目が集まるものの、これを可能にする実質賃金上昇は、見通せる将来において期待できそうにない。

それとも2023年がそうであったように、2024年以降も大方の予想をくつがえすような春闘の高い賃上げ率が実現するのか。現時点で2024年中のマイナス金利解除を合理的に予想するとすれば、そのようなシナリオに懸けるしかないように思われる。

もちろん、人手不足が極まる中、そのような展開も絶対にないとは言えないが、あくまでリスクシナリオの範疇にとどまるものであろう。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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