日本人はもう気軽にマグロを食べられなくなる 「中国に買い負ける」マグロ市場の悲しい実態

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マグロの漁獲枠は、海域ごとに行われる国際会議の決議に基づいて各国に分配され、各都道府県や各漁協、そして漁師という具合に、枝分かれするように分配されていきます。基本的にすべてのレベルで、分配は過去の漁獲実績に基づいて行われます。大間漁協では5t以上の枠を分配されている漁師もいれば、1t未満の枠しか与えられていない漁師もいたようです。

獲れば必ず儲かる大間マグロの場合、それぞれの漁師が与えられた枠の上限まで獲るのが普通です。すると漁獲枠分配の基準となる過去の漁獲実績は、永遠に固定化されることとなります。大間マグロのヤミ漁獲の動機には、そんな不公平感もあったものとみられます。

独り歩きする大間マグロのブランド

また、大間マグロというブランドが有名になりすぎたことも遠因でしょう。

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回転寿司チェーンなどで時折行われる「大間マグロフェア」などのイベントは、大きな集客効果があります。ただ、回転寿司チェーンは、大間マグロの調達コストを抑えるために、小さなマグロも混ぜられることが多いようです。その結果、大間マグロの醍醐味である脂の乗りなどは味わえなかったりもします。

一方で、大間に近い漁場で取れて北海道に水揚げされたマグロのほうが安くて品質が良い場合も多いことは、この業界にいる人なら誰もが知っていることです。

ただし、消費者はやはり「大間」というブランドに魅力を感じます。現在の水産流通では最終消費者に近い、末端市場の立場が強いこともあり、大間マグロというブランドが独り歩きしているような状況になっています。そのことは、大間のマグロ漁師にとってのヤミ漁獲への誘惑を高くしていたともいえます。

今回、ヤミ漁獲に加担した大間の漁師に科された刑罰は10万〜20万円の罰金のみ。これではヤミ漁獲の抑止になるとは思えません。

一方で、大間以外の近隣の港にも、おいしいマグロが揚がるということが消費者に周知されれば、消費者が大間ブランドに集中することもなくなり、ヤミ漁獲に手を染める漁師も少なくなるのではないでしょうか。

小平 桃郎 水産アナリスト

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おだいら ももお / Momoo

1979年、東京都生まれ。東京・築地の鮮魚市場に務める父の姿を見て育つ。大学卒業後、テレビ局ADを経て語学留学のためアルゼンチンに渡り、現地のイカ釣り漁船の会社に採用され、日本の水産会社との交渉窓口を担当。‘05年に帰国し、輸入商社を経て大手水産会社に勤務。‘21年に退職し、水産貿易商社・タンゴネロを設立。水産アナリストとして週刊誌や経済メディア、テレビなどに寄稿・コメントなども行っている。

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