日本人はもう気軽にマグロを食べられなくなる 「中国に買い負ける」マグロ市場の悲しい実態

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おおざっぱなイメージとしては、世界各地から釜山港に届くと、まずは大トロや中トロが欧州や中国市場向けに切り取られ、残りの赤身の一部が日本に配分されます。なかには、日本で水揚げされた日本産のマグロも含まれています。日本で水揚げされたのちに一度釜山に送られ、大トロはEU、中トロや赤身は日本に返ってくる、という流れもあるそうです。

赤身が安いのは中国人が大トロを大量消費するから

釜山港が流通のハブとして機能しているのはマグロだけではなく、カニやエビでも同様です。成長を続ける中国の水産業界との結びつきが歴史的に強いため、釜山港のプレゼンスは今後も高まっていくものと思われます。

中国の水産業者やバイヤーが海外でまとめ買いした水産物を釜山で荷揚げし、現地で切り分けや加工を行って大部分を中国市場に持ち込み、余剰品は日本や東南アジアに分配するという流れが、アジアにおける水産流通の今後のトレンドになりそうです。

それを知ると「中国の残り物を食べさせられている」ような気がするかもしれませんが、そもそも日本では大トロはさほど需要はありませんでした。中国が大トロを高く買ってくれるからこそ、日本人は赤身を比較的安く食べられているのです。

2023年1月、TBSの報道番組『サンデーモーニング』の新春スペシャル「堕ちるニッポン再生の道は……」と題されたドキュメンタリーが放映されていました。

そこでは冒頭、豊洲市場での初競りで大間産の一番マグロに昨年の2倍以上の値段がついたことを紹介したのち、目下起きているという「ある異変」について言及していました。

その異変とは中国のマグロ需要が高まる中での相場上昇で、輸入マグロの価格が過去10年で2割も高騰したことなどにも触れています。また、番組では日本一の水揚げ金額を誇る焼津港に年50回もマグロの買い付けに来るという中国人バイヤーが登場します。彼はその日も4.5tのマグロを購入し、2200万円を支払ったことも明かされます。

中国と同様に、ここ数年マグロの需要が伸びているのがアメリカです。

全輸出量の8割ほどを日本が輸入していたメキシコ産養殖クロマグロをめぐっては、2020年からアメリカへ輸出されることが多くなったのです。そしてついに2021年にはアメリカの輸入量が日本をわずかに上回りました。今後、数年以内にメキシコ産養殖クロマグロの7割がアメリカへ輸出されるようになり、日本への輸出分は2割未満にとどまるようになると私は見ています。

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