新神宮球場の「屋根なし」計画案に不安が募るワケ 整備費圧縮の結果、後利用が難しい新国立競技場
白紙撤回後に整備費を約1570億円まで圧縮して完成した隈研吾氏設計による現在の国立競技場は、屋根が観客席上部のみとなり、スタジアム側面も吹き抜けに。もちろん冷暖房はないため残念ながら夏の暑さと冬の寒さを防げず、荒天時の使用も制限される施設となった。ランニングコストも毎年10億~20億円規模と大きく、東京五輪・パラリンピック後の後利用にも苦戦している。
神宮外苑の再開発も同じ轍(てつ)を踏んで欲しくない。現在の論争が負の遺産ではなく、良好なレガシーを生み出す議論になればと願う。今季からヤクルト担当をしているからこそ思う。新神宮球場は本当に屋根なしで大丈夫なのだろうか、と。
国連のグテーレス事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」との見解を示すほど危険な暑さが続く夏に、プロ選手もアマチュア選手も炎天下で野球に取り組んでいる。「この暑さは危険ですよ」「新球場は本当に屋根はつかないんですか?」と本音を漏らす選手がいるのも事実だ。
本当に世界と勝負できる存在になれるのか
全天候型の施設となれば事業の幅が広がり収益性は高まる。当然、整備費とランニングコストは上がるが、レガシーとしての価値は高まるのではないか。歴史的にお天道様のもとで野球を開催してきた神宮球場にとって、開閉式の屋根という選択肢だってある。
もちろん土地の広さ、事業費などさまざまな問題で全天候型の計画は困難だったのだろう。それでも新神宮球場の詳細な設計はこれからだと「神宮外苑まちづくり」の資料にある。地球規模で気候が変わった今、選手の安全性やスタジアム事業の大きな飛躍に向けて、検討の余地は残っていないのか。
「世界に誇るスポーツクラスター(集積地)」を目指すという神宮外苑。本当に世界と勝負できるスポーツクラスターを実現することができるのだろうか。
8年前、私も世間の風潮に流され、新国立競技場の整備費高騰問題にばかり傾倒し、東京五輪後の実用化についての議論を脇に置いた反省点がある。歴史と自然環境を守ることは大事だし、開発が全てではないという意見も分かるが「ホワイトエレファント(無用の長物)」を生み出してしまうことが、最も避けなければならないことだ。
高野氏が表現したような、終着駅としての日本にはなってほしくない。日本が先頭集団を走りスポーツの力で世界に貢献できる、その発信地としての神宮外苑を期待している。
(ヤクルト担当 三須一紀)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら