【産業天気図・パルプ/紙】原燃料高に円安が追い打ち。輸入紙拡大懸念も再浮上で来期は暗雲も

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紙パ業界は現在、「コストは上がるのに値段は軟調」という2重苦にあえいでいる。原燃料高を着々と製品価格に転嫁して素材高の恩恵を満喫している他の素材産業に比べ、ある種「異色」といえよう。
 紙パメーカーは、コストアップを製品転嫁したいのはやまやまながら、安易に値上げをすると割安の輸入紙(特に中国産)に足元をすくわれる恐れがある。また国内での競争も熾烈。前期後半に数%の主要印刷用紙値上げが実現したはずだったが、「実勢的には、ほとんど変わっていない」(業界関係者)という。
 紙パ産業は従来、再編淘汰が一足早く進んだという意味で、他産業に比べて“優等生”的な評価を受けていた。しかし、王子製紙<3861.東証>、日本製紙グループ本社<3893.東証>という2大勢力が出現した今も、大王製紙<3880.東証>や北越製紙<3865.東証>など効率経営で鳴らす中位勢の価格競争力が強く、「紙パには2大メーカーはあるが、『2強』ではない」(業界ウオッチャー)との声も聞かれ始めた。価格形成力に乏しいためだ。
 今年ようやく動き始めた感のある商流再編も喫緊の課題。メーカー再編が先行したが、旧社の商流が整理されていないため、統合メーカーの同一製品を複数の系列卸商や一次代理店が混戦しつつ、安値競争を繰り広げている。バブル崩壊後の各産業の再編淘汰で大手ユーザーが一層大きなバイイングパワーを付け、価格交渉で劣勢を強いられているという側面も否めない。
 品質的な差別化をしにくい紙の性質上、激しい競争が常態化するのは宿命的なものがあり、今後は川上(原紙)だけでなく、川下(加工)分野を取り込む「グループ戦略」が重要。王子による段ボール大手の森紙業買収は、その典型例といえるだろう。
 今06年3月期は需要こそ堅調ながら、想定外の原燃料高に円安までが逆風となり、ほとんどのメーカーが通期業績予想を下方修正。自主的な減産もいとわず市況を優先し、価格安定化勢力と見られていた“2強”も、中下位勢に需要拡大分をさらわれていく事態を看過できず、ここへ来て増産姿勢に転換、下期市況は軟化の兆しが出てきた。それが輸入紙の流入を抑制する効果もあるにはあるが、この状況を「好天」とは言えまい。
 続く07年3月期は、国内に万博や選挙などの大イベントが見当たらないものの、景気回復継続で需要は横ばいないし微増か。ただ、中国で05年相次いだ新鋭大型工場の稼働が本格化し、流入増を予測する向きもあり、楽観を許さない。前年に続く「曇り」ながら、次第に暗雲が広がってくる恐れがあろう。
【内田史信記者】


(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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