中国で爆売れ「超小型EV」が"急失速"の複雑な背景 ライバルメーカーも続々登場、テコ入れも図る

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宏光MINIが登場した2020年はEVの価格が高く、大衆向けに位置づけられるテスラのモデル3でも日本円にして600万円以上、その下のグレードでも300万円以上した。だが最近はEVのラインナップが増え、飛ぶ鳥を落とす勢いのBYDが100万円台の小型EVを発売するなど、価格の選択肢が増えている。

また、中国のEV市場は拡大が続く一方で、100を超えるメーカーが過当競争を引き起こし、利益を犠牲にした値下げ合戦が続いている。7月上旬には自動車政策を担う工業情報化部とテスラなど自動車大手16社が、過当競争を回避するための合意書をつくったほどだ。

値下げ合戦の結果、小型SUVやセダンと超小型EVとの価格差が縮小し、通勤や買い物だけでなく家族でのレジャーなどにEVを利用したい消費者が、よりスペースのある車種に流れているとの指摘もある。

3年ぶりリニューアルか

宏光MINIと格安超小型EVの将来性については先細りとの見方が多いものの、同社が取るべき方向性については意見が分かれる。ミドルエンドに進出すべきとの声もあれば、人口が多く、格差の大きい中国では、車が普及していない地方都市・農村の市場がかなり残っており、ミドルエンドで手ごわいライバルと戦うよりは格安市場を深掘りするほうが得策だとの意見もある。

そんな中、宏光MINIが2020年の発売以来3年ぶりにリニューアルを進めていることが、同社が工業情報化部に提出した資料から7月に明らかになった。

フロントグリルやロゴのデザインが一新され、現行車種より全体的に丸みを帯びている。発売の承認を得る前のリストであるため、価格や発売時期、航続距離はわからないが、全体のサイズと車内のスペースは大きくなっており、充電口にも変化があることから多様な充電設備に対応する可能性がある。機能性の向上が期待され、販売テコ入れのためのリニューアルという見方がもっぱらだ。

Luminと熊猫miniの猛追を受けていることから、まずは超小型EVカテゴリで王座を死守すべく、ライバルを迎え撃つ態勢を整えているのかもしれない。

浦上 早苗 経済ジャーナリスト

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うらがみ さなえ / Sanae Uragami

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育など。中国メディアとの関わりが多いので、複数媒体で経済ニュースを翻訳、執筆。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。新書に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。
Twitter: @sanadi37

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