英国は、現有のユーロファイター・タイフーンの後継機「テンペスト」の開発について2019年にスウェーデンと、2021年にイタリアと覚書(MOU)を締結している。
英国のテンペストと日本のF-2後継機は、要求性能(F-35よりも長い航続距離、大きいミサイルペイロード等)や導入時期(2035年)等の共通点が多く、「両国が必要とする改修の自由を互いに認め、(略)対等な協力関係を構築する」(英国防省次期戦闘機開発課長リチャード・バーソン氏の産経新聞寄稿、2020年9月23日)というウイン・ウインの関係が期待できる。
巨額な開発費用と技術リスクの低減もメリットであり、JNAAMの経験で積み上げてきた技術協力の実績が日英共同開発を後押しした。これに、テンペストMOU締結国のイタリアが加わり、日英伊の3カ国共同開発としてスタートしたが、スウェーデンが加わる可能性もいまだ排除されていない。
日米同盟との両立:自律性と相互運用性のジレンマ
日本の次期戦闘機開発は、2010年8月に公表された「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」に始まる。以降、ステルス性能等を実証する先進技術実証機、搭載エンジンの研究開発等を積み重ねつつ、国内外の企業に情報提供依頼(RFI)を発出し、情報収集・検討を続けた。
2018年6月発出のRFIには、アメリカのロッキード・マーチン社(LM)からF-22の機体にF-35の先進アビオニクス等を合わせたハイブリッド機の提案があったが、F-35の中枢技術の開示は確約されなかった。このため、2019年12月末の2020年度防衛予算案説明会では、「どの派生機も要求を満たさず除外した」との発表があり、LM社のハイブリッド機案は消えた。
アメリカ軍はこの時期、F-22後継機となる「次世代航空支配(NGAD)」プログラムを非公開で推進中であり、2020年9月にはNGAD実証機がすでに飛行したと発表している。日本の次期戦闘機事業は小規模で、タイミングが合わず、また現時点でもほとんど情報公開されない事業をベースにした日米共同開発の可能性はなかった。
日本は、F-2共同開発やF-35のFMS(有償軍事援助)完成機輸入の苦い経験から、次期戦闘機には、将来の脅威や技術の進展にも柔軟に対応できる十分な拡張性、我が国の主体的判断で改修・能力向上ができる改修の自由、そして、適時適切な改修・能力向上と高い即応性等を確保できる国内維持整備基盤が必要条件とされた。すなわち、航空優勢獲得の中核となる戦闘機の自律性を求めたのである。
その一方で、同盟国との相互運用性の確保は必須であり、2020年12月、LM社をインテグレーション支援の候補企業として選定。2021年12月には、「LM社と支援内容について協議を続けるとともに、令和3年8月からアメリカ空軍等との間で、インターオペラビリティの確保のため、将来のネットワークに係る共同検討を開始」、同時に日英防衛当局の「共通化の程度に係る共同分析を実施する」と公表された。
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