e-fuelは「自動車脱炭素化」の切り札となれるか 安価な水素と大気中からのCO2捕集が不可欠

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ここで問題となるのはe-fuelの環境性だ。工場などで排出するCO2を再利用(CCU:二酸化炭素回収利用)して、これを化学製品やセメントなどの原料に使う場合はよいが、e-fuelの場合には使用すれば燃焼してCO2を排出することになる。この排出責任を原排出者(工場など)と最終排出者(e-fuel使用のエンジン車)のどちらが負うかがポイントとなる。仮に半々とすれば、e-fuel側の削減率は最大でも50%にとどまる。

EUタクソノミーでは非バイオマス由来の再生可能燃料(RFNBO=Renewable fuels of non-biological origin)の基準をCO2削減率70%以上と規定している。2035年以降のe-fuel使用車を容認する方針の詳細(CO2削減基準など)はいまだ公表されていないが、おそらくRFNBO基準が準用されることになろう。そうなると、CCUを利用したe-fuelはクリーン燃料と認定されない可能性が高い。

他方、大気中から捕集したCO2を使って製造したe-fuelであれば、走行中にCO2を排出してもカーボンニュートラルだ。チリのHaru OniプロジェクトでDACが使われているのはそのためだ。

割高なe-fuelの製造コスト

もう一つの、そして最大の課題はコストだ。この数年、再エネ発電のコストが急速に低下し、グリーン水素の製造コストも大幅に下がった。それでも現時点でe-fuelの製造コストはガソリンの数倍高い。

DACを使った場合はさらに割高となる。Haru Oniプロジェクトから昨年12月に初出荷されたe-fuelの価格は50ユーロ/リットル(約7500円)だと言われている。通常のガソリンの製造コストの約100倍だ。これは規模の小さいパイロットプラントでの製造コストであり、大型のDAC装置を備えた工業規模の生産体制が確立すれば2ユーロ(約300円)程度に下がると見込まれている。それでもなおガソリンの4倍であり、コスト低下のタイミングにも不確実性がある。

e-fuel早期実用化のためには、再エネ発電のコストが今後も順調に下がり続けること、およびDACやe-fuel合成工程のコスト低減を可能にする技術開発が必要となる。

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