e-fuelは「自動車脱炭素化」の切り札となれるか 安価な水素と大気中からのCO2捕集が不可欠

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Haru Oniプロジェクトでは2021年7月からプラントの建設がスタートし、昨年12月には最初の製品として2600リットルのe-fuelが出荷された。製造能力は、パイロットプラント段階の現在は年間130キロリットルであるが、2025年に5万5000キロリットル、2027年に55万キロリットルへと、規模を拡大する計画だ。

プロジェクトメンバーにはチリ電力会社AMEの関連企業HIFグローバル(Highly Innovative Fuels Global)、シーメンス・エナジー(ドイツ)、ポルシェ(ドイツ)、エネル(イタリア)、エクソンモービル(アメリカ)などの大手企業が名を連ねる。

プロジェクトオーナーはHIFグローバルだが、実質的にプロジェクトを主導するのはドイツの2社だ。シーメンス・エナジーは風力発電機、電解装置など主要機器のサプライヤーであり、システムインテグレーターとしてプロジェクト全体を統括する。ポルシェはHIFグローバルの設立時からの出資者で、本プロジェクトのオフテイカー(製品の購入をあらかじめ約束)でもある。また、ドイツ政府からは800万ユーロ(約12億円)の助成金が出ている。

プロジェクトを主導するドイツの2社(およびドイツ政府)には2つの狙いがあると思われる。1つ目は技術と資金を提供してチリの安いグリーン水素を囲い込むこと。2つ目はグリーン水素製造やDACの低コスト化に向けた技術実証を進め、e-fuelの実用化にメドをつけることだ。

ドイツのエコカー戦略とe-fuelの位置づけ

ドイツがe-fuelの開発・実用化に熱心なのにはワケがある。ドイツを始めヨーロッパの自動車メーカーは、クリーンディーゼルを排ガス対策の中軸とする戦略を採ってきた。ところが2015年にフォルクスワーゲンの排ガス検査不正が発覚し、クリーンディーゼルはクリーンなイメージを失墜し販売台数は激減した。

そこでドイツ(およびヨーロッパ)のメーカーは一斉にEVを軸とする戦略に転換した。この結果、ヨーロッパ自動車市場でEVシフトが進み、2022年のEV販売台数(プラグインハイブリッド車を含む)は約260万台、新車販売台数に占める比率は21%に達した。

ところが、EVシフトが進むことはドイツにとってよいことばかりではない。ガソリン車やディーゼル車など内燃機関の車は、3万点もの部品をすり合わせて1台の完成車を作り上げる。そのため、ドイツのような自動車大国には高い技術を持った部品産業が集積している。

一方、EVは部品点数が半分程度で、モジュール化された部品も多く、技術的ハードルは内燃機関の車より低いとされる。EV比率がどんどん高まると、ドイツの部品産業は仕事を失い、雇用を守れない、ということになりかねない。もしe-fuelがモノになれば、部品産業を守ることができ、完成車メーカーも強い競争力を持つガソリン車やディーゼル車を作り続けることができる。

こうしたドイツ自動車業界の思惑はEUの脱炭素政策にも影響を及ぼしている。EUは2035年以降、ガソリンなどで走るエンジン車の販売を全面的に禁止する方針だったが、ドイツ政府がe-fuelを使用する車両は認めるべきだと主張。イタリア・東ヨーロッパ諸国もこれに同調し、今年3月、条件付き容認に方針転換した。今後、燃料の基準や利用方法など詳細を詰め、今年秋には正式決定となる見込みだ。

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