「一夜漬けの知識」が記憶に残らない科学的理由 詰め込んだ知識を思い出せなくなるのはなぜか

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神経細胞は、新しい情報がインプットされると突起を伸ばしていって、近くの神経細胞が伸ばしてきた突起と、まるで手を取り合うかのようにつながります。

この指先が触れ合っている部分が、前述の「シナプス」と呼ばれる場所です。このシナプスを介した神経細胞同士のつながりがいくつもできて、やがて回路をつくります。

この神経回路、あえて言い換えるなら「記憶回路」こそが、記憶の正体と考えられます。

インプットされた情報は、脳のなかの「海馬」という場所にまず保存されます。海馬は脳の奥深くに存在しています。つまり、それだけ重要な機能を担う部位といえます。

細かく書くと複雑になるので省略しますが、この海馬に保存された情報は、情報として重要な部分が残るように適切な処理が行われたのち、一時的に保存されます。

じつはこの状態のままだと、長くても1カ月後には海馬から記憶が消去されてしまいます。

つまり、何もしなければ1カ月後には思い出すことができなくなってしまうのです。

この海馬に情報が一時的に蓄えられたあと、「重要な情報」と判断された場合には、その情報は海馬から取り出され、脳の表面にある側頭葉と呼ばれる部分などに、長期間「記憶回路」として保存されるのです。

なにもしなければ記憶は1カ月で消える

この海馬から側頭葉などに取り込まれた情報こそが、脳のパフォーマンス向上につながります。

なぜ記憶回路が脳のパフォーマンス向上に関係するのか。

それは、この記憶回路が、問題の解決やアイデアを出すときにおいては、「知識のテンプレート」として応用が効くものになるからです。

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だからこそ、「重要な情報」として残るように、海馬から側頭葉に記憶回路を作るコツを身につけなければなりません。

そうしなければ、あなたがさまざまな方法で試している時間術やインプット法で覚えた情報は、ただ海馬にとどまっているだけで、そのうち消えてしまう記憶になります。

つまり、努力してせっかくインプットした情報が、いつのまにか思い出せなくなっていたのは、海馬から先に行くことなく、脳にとって必要のない情報として、消されてしまっていたことになります。

ではどうすればいいのか。

重要な情報を記憶に定着させるコツは、もう一度同じ内容を改めてインプットすることです。1カ月前に書いたメモの内容を、何も知らない小学生に教えるつもりで改めて文章として記載してみてください。こうすると、1カ月前にインプットした情報が、さらにバージョンアップされた状態で再インプットされるのです。

せっかくインプットした情報を使える記憶として残しておくために、本稿を参考にしていただければ幸いです。

下村 健寿 福島県立医大主任教授、医師

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しもむら けんじゅ / Kenju Shimomura

福島県立医科大学医学部病態制御薬理医学講座主任教授。医学博士・医師。元・英国オックスフォード大学生理学・解剖学・遺伝学講座/遺伝子機能センター・シニア研究員。インスリン・糖尿病学の世界的権威、フランセス・アッシュクロフト教授に師事。同大学にて2004年に発見された、新生児糖尿病の治療法発見に貢献する。特に2007年に米国神経学会雑誌「Neurology」において、新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の世界初の治療有効例を、その治療法・病態メカニズムとともに報告し、Editorial論文に選ばれ高い評価を受けた。現在は母校・福島県立医科大学病態制御薬理医学講座の主任教授を務める。

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