日銀の手持ちカードは尽き、「円売り」挑発が襲う 「玉虫色の修正」が招く「引き締め」催促相場

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例えば145円を突破し、150円に肉薄するような局面が到来した場合、日銀は再び決断を迫られるだろう。そのような状況下でも「円安は日本経済全体にとってプラス」と強弁し続けたのが黒田前体制であったが、実質賃金上昇の重要性を説く植田体制にそれは難しいと推測する。

仮に、金融政策で応戦するとしたら、次は正真正銘の利上げである「マイナス金利解除」しかカードは残されていないが、内田副総裁をして「今の経済物価の情勢からみると、その判断には大きな距離がある」と言わしめたその決断は容易ではない。

YCCの実質的な撤廃をうまく乗り越えたものの、円安是正が大して進まなかったことで、今後の政策運営に大きな不安は残ったと考えるべきである。

まだ円は「売る価値のある通貨」

なお、今回の政策修正は、YCCの副作用として懸念される「金融市場のボラティリティ」を極力抑制したいという意向を含んでいた。植田総裁曰く、その中には「為替市場のボラティリティ」も含まれているというが、果たしてもともと形骸化していたYCCを実質撤廃する程度で、円売りに勤しんでいた投機筋は納得するだろうか。

「実需の円売り」が根強くついて回るファンダメンタルズを思えば、まだまだ円は「売る価値のある通貨」として見られていくのではないか。長い目で見れば、YCC撤廃というカードを捨て去ったことで、日銀が「円売りによる挑発」に苦しみやすい環境が仕上がったように思える。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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