映画「オッペンハイマー」広島の被害描かない疑問 原爆被害のリアルが世界に伝わらないジレンマ

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オーストラリアとイギリスのメディアに寄稿する記者ジル・プリングルは、「クリストファー・ノーランはこれを反戦映画だと言うけれど、原爆がもたらす惨状よりもフローレンス・ピューの胸を重視するなんて、本当にそう呼んでいいものか」と語る。

イタリア人記者のアドリアーノ・エルコラーニ=ジョンソンも、ノーランを臆病だと呼び、「彼は興行成績を気にして、広島と長崎を見せないという自己検閲を選んだ。正直、がっかりさせられた」と述べる。ただし、「オッペンハイマーを大量殺人者だとは思わない。彼は発明が世界に大きな影響を及ぼすことになった科学者にすぎない」とも付け加える。

原爆を作る過程をエキサイティングに描く?

核軍縮キャンペーン、ロンドン支部の会長キャロル・ターナーは、「The Guardian」に対し、「この映画を見た人は、なんと恐ろしい大量破壊兵器なのか、これが今日にも存在するのだと恐れるのではなく、(原爆を)作る過程はエキサイティングだったと思いながら劇場を出るでしょう」と、残念な気持ちを明かした。「被爆された方の写真を見たり、記録を読んだりしたらわかりますが、あれは恐ろしくて残虐だったのです」とも、彼女は述べる。

被爆地を描かなかった理由について、ノーランは、先月、ニューヨークでの上映会の後に行われた対談で、「残酷さを抑えるためではない」と説明している。彼に言わせれば、この物語をオッペンハイマーの視点から語るためにやったことだ。

「私たちは(原爆の影響について)当時の彼よりもっとよく知っています。彼は広島と長崎に原爆が落とされたことをラジオで知ったのです。ほかの人たちと同じように」と、ノーラン。彼はまた「私はドキュメンタリーを作ったのではありません。私なりの解釈をしたのです」とも述べた。

そうした言い分は、たしかに理解できる。それでも、ノーランのように数多くの観客を集められる監督が原爆の被害をハリウッドの超大作で描いたとしたら、正しい知識を広めることができただろうにと、やはり考えてしまう。

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