日本一条件厳しい「AIオンデマンド交通」の現実 2007年から始まった「長野県安曇野市」の挑戦

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当時、「あづみん」は全国から注目を集めた。その理由は、そもそも路線バスがなかった市の全域で、一気にドア・トゥ・ドアのオンデマンド交通を採用したからだ。

また、このころは全国各地で路線バスやコミュニティバスの運行効率の低さが課題になり始めており、次のステップとしてオンデマンド交通への関心が高まっていた時期でもあった。

「あづみん」は、特に高齢者の日常の足として定着していき、2022年に運行関連事業が更新を迎えるタイミングで、これまで解決できなかった課題解決に向けて「あづみんのAI化」の検討に入ったというのが、これまでの流れである。

安曇野市が「のるーと」を導入した経緯

AIオンデマンド交通には、2010年代後半からさまざまな事業者が進出している。

例えば、公立はこだて未来大学の学内ベンチャーである「未来シェア」、アメリカのVia、自動車メーカーではダイハツの通所介護事業者向け・送迎支援システム「らくぴた送迎」、自動車部品メーカーではアイシンの「チョイソコ」、そしてトヨタ×ソフトバンクの事業である「MONET(モネ)」などが挙げられる。

タクシーの分野では、日本交通とDeNAの事業連携がルーツの「GO」や、徳島のベンチャー「電脳交通」等が配車システムを提供している。

安曇野市は、AIオンデマンド交通の情報収集や現地調査を進める中で、松本市を中心とした経済生活圏と重なる塩尻市が先行して試験導入していた「のるーと」の存在を知り、採用した。

「のるーと塩尻」では自動運転車両を使っての実証試験も行っている(筆者撮影)
「のるーと塩尻」を社会実装した塩尻市では、自動運転車両を使った他の実証実験も行っている(筆者撮影)

採用の決め手となったのは、システム提供後のアフターケアについての安心感があること。また、将来的に安曇野市と塩尻市の双方と隣接する松本市との広域連携を考えた場合、共通のシステムであったほうが望ましいという考え方もあったようだ。

現在では、ミニバン車両16台を使う「のるーと安曇野(あづみん)」が、土日祝日を除いて運行している。

そのほか、市内には定時定路線のコミュニティバスが2路線ある。これは、市内を南北にJR大糸線(松本~糸魚川)とJR篠ノ井線(塩尻~篠ノ井)が縦断しており、その間をつなぐシャトル便のような存在だ。これらすべての交通は、安曇野市の予算によって運用されている。

直近での年間総予算は約1億3000万円を計上、収入は約2000万円と、地方部の公共交通として考えると収益額は多い。旧「あづみん」では、年間予算は7000万円程度だった。

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