日本一条件厳しい「AIオンデマンド交通」の現実 2007年から始まった「長野県安曇野市」の挑戦

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2019年4月に福岡県福岡市東区アイランドシティでサービスを開始したのを皮切りに、福岡県内では宗像市、古賀市、宇美町、福島県会津美里町、喜多方市、三重県桑名市、島根県松江市、そして今回、取材した長野県安曇野市と塩尻市など、2023年7月時点でサービスを行っている場所は、13カ所。

そのほか、2023年後半から2024年にかけて近畿や関東の複数箇所でサービス開始が予定されているなど、新たに10カ所程度で運行の準備を進めているという。安曇野市については、市の全域で2022年11月から運行が始まっている。

北アルプスを望む安曇野市の町並み(写真:ライダー写真家はじめ / PIXTA)
北アルプスを望む安曇野市の町並み(写真:ライダー写真家はじめ / PIXTA)

同市は松本市の北東に隣接し、2005年10月に旧5町村の南安曇郡豊科町、穂高町、三郷村、堀金村、そして筑摩郡明科町が合併して誕生した自治体だ。

面積は331.78km2で、人口は9万6399人(2023年6月1日時点)。居住エリアは、おおむねクルマで30分以内で、距離にして東西10km×南北が12km程度である。

「あづみん」の名で親しまれる「のるーと安曇野」

安曇野市のAIオンデマンド交通は正式名称を「のるーと安曇野」というが、市民の多くは「あづみん」と呼ぶ。なぜならば、2007年から運行されていたオンデマンド交通が「あづみん」と呼ばれるもので、そのシステムが今回、「のるーと」に変更されたからだ。「あづみん/のるーと安曇野」というダブルネームとしている。

旧あづみんは、予約の受け付けを社会福祉協議会が行い、料金は1回300円。すでに、ドア・トゥ・ドアの手厚いサービスが行われていた。こうした基本的な運用方法をAIオンデマンド化した「のるーと安曇野」でも、継承している。

マイクロバスなどではなく、キャラバンやハイエースを使い「ドア・トゥ・ドア」を実現する(筆者撮影)
マイクロバスなどではなく、キャラバンやハイエースを使い「ドア・トゥ・ドア」を実現する(写真:安曇野市)

なぜ、この地域はオンデマンドバスの導入が進んだのか。それは、5町村合併により安曇野市となる前、路線バスが次々と廃線となり、交通環境が著しく悪くなったためである。

民間交通事業者による20路線の路線バスが運行されていたが、2005年に16路線が、残りの路線も2010年にすべて廃線となってしまったのだ。また、旧5町村では福祉バスや町村内循環バスがあったが、隣接する町村との連携は行われていなかった。

そして、2006年に「安曇野地域における公共交通システムの構築に関する検討会」を設けて地元関係者間で議論を重ね、2007年9月から、「あづみん」の試験運行を始めたという経緯がある。

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