日本一条件厳しい「AIオンデマンド交通」の現実 2007年から始まった「長野県安曇野市」の挑戦

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乗降時の介助に関しては一定のルールはあるが、万が一の場合の責任問題をどのように考えるのか、全国各地で社会実装されているさまざまなオンデマンド交通において“難しい課題”と指摘されることが少なくない。

次に、2022年11月から取材時の2023年7月までの8カ月間における「のるーと安曇野」の運用について、黒岩氏と中嶋氏に振り返ってもらった。直近でもっとも大きな課題として、「運行の効率が高止まっている点」を強調する。

安曇野市 政策部 政策経営課 課長の黒岩一也氏(右)、同課企画担当主査の中嶋信之氏(左)(筆者撮影)

コロナ禍前、旧「あづみん」の乗客数は1日あたり450人から500人弱だったが、「のるーと安曇野」になってからは、それより100人程度少ない。その理由は、現状でのAIオンデマンドのシステムが示す最適な乗車条件によるものだ。

旧「あづみん」では、電話を受けたオペレーター個人の経験に基づく「配車のさじ加減」が運行効率を上げていた場合があったと、市とネクスト・モビリティは分析している。つまり、ニーズはあっても、それに対応しきれていない部分があるということ。市とネクスト・モビリティは、毎週のように改善策を協議し、システムの変更を続けているという。

市内をあづみんが走行する様子(筆者撮影)

「三方良し」の実現に向けて

安曇野市民は旧「あづみん」に慣れ親しんだ期間が長いため、新システムを導入した「のるーと安曇野」に対する評価も厳しいと言えるだろう。

旧「あづみん」、そして「のるーと安曇野」と、いち早くオンデマンド交通に取り組んできた安曇野市。全国から注目される中で試行錯誤を繰り返す様子は、オンデマンド交通の理想形に近づけるための「良きたたき台」になっていると表現できるかもしれない。

利用者の利便性、行政の住民サービスに対する達成度、市の予算を使う点での運用に関するコストパフォーマンス、そしてサービス提供者としての事業性の確保……。これらが今後、どのように「三方良し」になっていくのか。今後も、安曇野市の取り組みに注目していきたい。

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桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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