屋内退避の南相馬で何が起きているか--弱体化した医療の回復へ、現場の努力が続く
高橋院長は内科を中心に患者を診ているが、「避難前と避難後では、患者の体調がまったく違っていた。脱水症状でやつれていたり、栄養失調や肺炎を起こしている患者も目立つ」と語る。「転々と避難場所の移動を強いられている患者の体調は悪く、多くの市民が自宅に戻ってきたいと思うのは当然だ」(高橋院長)。
とはいえ、診療態勢が正常に戻らないのが目下の悩みだ。「工事業者が南相馬市まで来ないので、地震で傷んだ配管や暖房器具を直すことができない」(同)という。
相双地域での精神科病院の相次ぐ閉院は、30キロメートル圏外の医療や福祉事業所にも大きな打撃を与えている。NPO法人あさがお(西みよ子理事長)は、精神障害を持つ人の生活を支援する作業所やグループホームを、南相馬市鹿島区で運営している。あさがおの作業所やグループホームは30キロメートル圏よりも外側に位置するが、原発事故の余波を受けた。
利用者の多くが通院先を失ったうえに、「原発事故による風評被害で売り先がなくなったため、みそなどの食品作りができなくなった」(西理事長)。その一方、「30キロメートル圏外」ということで、市からは「必要ならば自分たちの判断で避難してください」と言われた。
あさがおの利用者26人は、職員のつてをたどり、3月17日に100キロメートル離れた福島県伊達市の体育館へ。翌18日から31日まで、山形県上山温泉の集会場で自炊による避難生活を送った。利用者はここで薬の処方を受けるとともに、清掃などの作業に従事した。
精神科医療の崩壊は隣接の相馬市にも波及
その南相馬市の北に位置しているのが相馬市だ。原発から40キロメートル以上離れるが、精神科の薬を得ることができなくなった患者が続出。相馬市内には精神科病院が存在しないうえ、精神科を掲げる診療所もない。そのため、患者の多くは南相馬市など病院に通っていたが、病院の閉院で行き場を失った。