「若い精子」なら大丈夫?精子凍結に広がる大誤解 若い男性ににわかに人気化しているが…
そもそも「精子凍結保存」の歴史を紐解くと、本来、家畜繁殖業界において精子の備蓄を目的としてマイナス196℃の液体窒素タンク内に保存するために開発された技術だという。1950年代、グリセリンを保護剤とした凍結保存精子が人工授精に用いられるようになったことから始まっている。
ヒト精子の凍結保存は1953年に始まり、1958年に日本でも凍結保存精子による非配偶者間における人工授精(AID)によって子どもが誕生している。当初は、ヒトへの臨床応用はAIDにおける精子備蓄に限られていたのだが、現在では適応が広がり、不妊治療の一環として精子を凍結保存するケースがほとんどになっている。
一方で、未婚男性も含めて癌が見つかり、手術や放射線、化学療法をする際に、これらの治療により精巣における精子形成機能(造精機能)が強く傷害される可能性があることから、治療前に精子の凍結保存をする手段が取られるケースも少なくない。
一見良好に見える運動精子が、隠れた異常をもつことも
「一般的に『運動精子ならば良好精子であり、異常なし』といったイメージで語られていますので、『運動精子を凍結保存すれば大丈夫』という考え方が定着しています。しかし実際のところは、見た目には問題がない良好な運動精子であっても、写真のように精子の中の見えない部分に空胞(穴)が認められる『隠れた異常をもつ精子』も多々含まれています。つまり、『元気に泳いでいるという指標だけでは判断できない』ということです」(黒田医師)
つまり、『隠れた異常のない運動精子であること』、なおかつ『凍結に向いている精子であること』が確認できたうえで保存しなければあまり意味がないということだ。黒田医師は、若い層がとくに「運動精子を凍結保存しておけば大丈夫」と思い込んでいる傾向が強いと警鐘を鳴らす。
一般的に細胞を凍結する際、細胞内に氷の結晶ができてしまうと細胞は壊れてしまう。例えば水を凍らせる場合でも、中に結晶を作らずにひび割れもさせないためには高度な技術が必要だ。
同様に精子を凍結させる際にも、細胞保護剤を用いて精子を壊さないよう脱水、氷晶形成を抑制させる技術が必須だという。同時に、蘇生率を向上させるために、精子細胞表面を被覆して細胞膜の障害を防ぐ配慮も極めて重要だと力説する。
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