「若い精子」なら大丈夫?精子凍結に広がる大誤解 若い男性ににわかに人気化しているが…
細胞質が極めて乏しい特殊構造をしている精子は、細胞膜の直下にDNAが局在しているため、細胞膜損傷がDNA損傷に直結してしまうのだ。そのため、精子を凍結保存する際には、事前に保存に向いている「細胞膜が強いタイプの精子なのかどうか」を見極めるため、精密検査をすることが大前提になるという。
以下の写真を見比べていただきたい。
下左の青く染まる精子は、頭部細胞膜に傷がない運動精子で、このタイプは凍結保存に向いているとのこと。しかし不妊治療に使用する際には凍結した精子を融解する必要があるので「最終的にどの程度生き返るのか」を再評価しなければならないという。
一方で右下の赤く染まる精子は頭部細胞膜にすでに傷がある運動精子で、健康な命の誕生に繋がる可能性は低く、凍結保存には向いていないという。
慎重に情報収集してから判断、行動を
隠れた異常のない運動精子を選別したうえで、凍結に向いている精子であることを事前チェックできて、さらにその機能を損なうことがないように凍結して融解できることが必要不可欠になるのだ。
「精子を凍結する時と融解する時では、最適な温度の変化率が違います。そのため、精子融解技術においても、凍結と同様に細胞膜障害を配慮する必要があります。
通常の医療は具合の悪いところを治すことを目的としていますが、生殖医療の目的は健康な命を誕生させることです。そのためにも、精子と卵子の遺伝子がそれぞれ安全に保証されていることが前提になりますので、精子の品質、妊孕性(にんようせい:妊娠するために必要な能力)を損なうことなく凍結融解できる『高精度な技術を提供できること』が不可欠です」(黒田医師)
こうした前提のうえでなければ、時間と費用が無駄になってしまいかねないことを知っておいた方がよいだろう。
精子凍結の費用は、5000円から数万円のところが多いが、10万円くらいかかる医療機関もある。ただし今回解説した高精度な精子凍結・融解技術を持っている施設は極めて少ないという。
また保存期間は施設によって異なり、世界保健機関(WHO)や日本産科婦人科学会で明確な基準を設けているわけではない。多くの施設では1年間に限定しているが、毎年保管料を支払い、更新手続きをすれば期間延長が可能になる。保管料は年間5万円くらいが相場のようだ。
黒田医師は、「どんなに高度な技術であっても限界があるということを謙虚に受け止めながら、健康な命に繋がる安全な生殖補助医療技術の確立と提供に努めたい」と語った。
命に関わる重要なことであるだけに、慎重に情報収集してから判断、行動してほしいと思う。
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