こうした依存関係の軛(くびき)がもっとも先鋭化したのが、ロシアのウクライナ侵攻後のインドだった。
インドは冷戦期のソ連との緊密な友好関係を基盤として、ソ連製兵器を主体とした装備体系を構築した。2000年から2020年の間に、インドが外国から調達した兵器のうち66.5%がロシア製で、修理部品や弾薬の補給の大部分もロシアに依存していた。
直近の2017~2021年の5年間でもロシア製兵器の依存度を減らす努力にもかかわらず、最大の調達先はロシア(46%)で、フランス(27%)、アメリカ(12%)を大きく上回っている。インド陸軍の主力戦車は依然としてソ連製のT-72/T-90であり、空軍の主力戦闘機はSu-30MKIである。インドがロシアからS-400地対空ミサイルを購入し、同時期に購入したトルコと同様にアメリカを苛立たせたのはほんの数年前のことだ。
インドがロシアのウクライナ侵略に対し、旗幟を鮮明にすることができなかった理由の筆頭に、ロシアとの依存関係があることは自明である。2022~2023年の国連総会におけるウクライナ関連の6回の決議に対して、インドはすべて棄権票を投じた。
欧米諸国と同志国がロシアに対する厳しい経済制裁を実施する中で、インドの中立的な立場は目立つものとなった。インドが欧米諸国と価値を共有する国なのか、地域大国として秩序を牽引する国となりうるのかという疑念が浮上したことは無理もない。
ロシア依存からの脱却にも動くインド
インドも一方では欧米一辺倒の世界観には共鳴せず、多極化世界を目指す論調を吹聴しながら、他方では自身の戦略的自律性を拘束しているのがロシアへの過度の依存であることも認識していた。
本年6月のモディ首相の訪米と、米印首脳会談における軍事分野の協力強化は、このような文脈で捉えるべきである。アメリカ同盟国以外の軍事協力としては異例ともいえる合意の中身には、インド空軍の次期戦闘機エンジンの共同生産、無人航空機シーガーディアンMQ-9Bの売却、アメリカ海軍艦船のインド国内の造船所での修繕、半導体や人工知能での協力を含む。
アメリカにはインドとの戦略的関係を重視し、軍事分野のアメリカ依存比率を増やすことにより、長期的関係の構築につなげる対印戦略がうかがえる。インドにとっては軍事分野での依存関係の分散化こそが、戦略的自律性につながるという考え方が重視されている。
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