国家安全保障をめぐる依存・自律・連携の装備戦略 兵器の輸入・国産化・共同開発の新しい潮流

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図1:インド太平洋諸国の輸入兵器の割合と供給国
国名 輸入額順位
(2016-2020)
輸入兵器の割合
(ライセンス生産割合)
最大の供給国 軍事支出額
(USD,2021)
軍事費順
オーストラリア 2 98.3%(67.8%) アメリカ(69%) 31,754 5
中国 3 8.4%(6.7%) ロシア(77%) 293,352 1
インド 1 84.3%(57.8%) ロシア(54%) 76,598 2
インドネシア 8 90.2%(32.4%) アメリカ(23%) 8,259 9
日本 6 26.2% (16.3%) アメリカ(97%) 54,124 3
韓国 4 56.3% (19.8%) アメリカ(58%) 50,227 4
マレーシア 16 100% (27.8%) スペイン(32%) 3,830 13
パキスタン 5 97.4% (50.1%) 中国(72%) 11,305 8
シンガポール 9 72.2% (1.0%) フランス(43%) 11,115 7
台湾 15 36.2% (0%) アメリカ(100%) 12,958 6
タイ 10 98.0% (2.8%) 韓国(25%) 6,605 10
ベトナム 7 100% (10.6%) ロシア(66%) 5,500 (2018) 該当なし

(出所)ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)各種資料を筆者修正

図1からわかることは、インド太平洋地域において輸入兵器の割合と最大供給国の割合がいずれも50%以上の「高依存・特定国集中」国は、オーストラリア(アメリカ)、インド(ロシア)、韓国(アメリカ)、パキスタン(中国)、ベトナム(ロシア)である。

逆に輸入兵器の割合は50%以上だが最大供給国の割合は50%未満の「高依存・輸入元分散」国に位置付けられるのは、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイで、ASEAN諸国が特定の大国との関係形成に慎重な配慮をしていることがわかる。

他方で国内の防衛産業基盤が整備され、輸入兵器の割合が30%以下の「低依存度」国は、わずかに中国(8.4%)と日本(26.2%)のみとなる。

輸出した兵器が母国に刃を向けることも

もちろん輸入兵器の割合や特定国への依存が国家戦略のすべてを拘束するわけではない。

たとえば、冷戦終結後の中・東欧諸国が、旧ソ連製兵器を主体とした装備体系を維持しながらNATO加盟を果たした過程や、ウクライナ戦争でウクライナ側に中・東欧諸国の旧ソ連製兵器が投入されていることにもみられるように、輸出した兵器が巡り巡って、母国に刃を向けることも歴史的には稀ではない。汎用性が高い小型兵器であれば尚更である。

しかし現代の主要装備である戦闘機、戦車、艦艇、潜水艦、防空システムなどの調達、訓練、整備、更新を特定の国に依存する場合において、特定供給国が有する交渉力(バーゲニングパワー)は絶大である。究極的には、供給国が輸出を制限もしくは遮断する威嚇をすることにより、輸入国の安全保障を脅かすことが可能となるからだ。

次ページロシア製兵器への依存と脱却の試み:インドのケース
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