お粗末なロンドンの水道が示す「民営化」の末路 老朽化で水漏れに汚水放流、再国有化に支持

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テムズウォーターは44億ポンドの手元資金を保有しているとされ、追加出資を受け取れない場合も、すぐに資金不足に陥る状況ではない。同社の負債の平均年限は12年超で、5年未満に返済期限を迎える負債の割合は3割程度のため、向こう数年の返済原資は手元資金で賄える。

追加出資で一時国有化のリスクが後退し、突然の経営トップ交代による市場参加者の疑心暗鬼が薄れたこともあり、同社の財務状況を取り巻く不安心理はひとまず後退している。

老朽化で1日にプール250個分が水漏れ

英国の水道事業は近年、さまざまな課題を抱えている。

19世紀に整備された英国の上下水道は老朽化が進んでおり、水道管の水漏れや破裂事故が頻繁に発生している。今回問題となった水道会社の場合、水漏れによって失われる1日当たりの水の量は、オリンピック競技用の水泳プール250個分に相当するとの報道もある。

汚水による環境破壊も深刻だ。

英国では家庭からの生活排水や汚水と、排水溝などから流入する雨水が、同じ下水管を通って下水処理施設に運ばれる。大雨などで輸送能力を超える水量が下水管に流れ込むと、周辺の住宅や道路などへの逆流を防ぐため、河川や海に処理前の水が放流される。

2022年には英国全土で延べ175万時間、1日当たり825回の放流があったとされる。河川や海に流れ込んだ生活排水や汚水が、魚や鳥の汚染や生態系の破壊を引き起こしているとされ、下水道事業を営む水道会社はしばしば罰金の支払いを命じられてきた。

今回、経営問題が勃発したテムズウォーターも最近、2017年の汚水排出を巡って裁判所から330万ポンドの支払いを命じられた。2017年には2013~2014年の汚水排出で2030万ポンドの罰金を支払い、2018年には漏水対策が不十分であるとして1億2000万ポンドを支払った。

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