元IT企業社員が「魚屋」になって学んだ働き方 「人生最大の危機」から生まれた魚屋の森朝奈さん
同時にECサイトをリニューアルしたり、SNSにも力を入れたりするうちに、『お任せ鮮魚BOX』というヒット商品が生まれました。
これは、コロナ禍で飲食店が市場で魚を買わなくなったために値下がりした珍しい魚を詰め合わせた商品です。なんと、1日2000件も売れた日もあります。
このヒットをきっかけに、詰め合わせ作業のために自宅待機していた社員は会社に戻り、社内には活気が戻りました。
それだけでなく、市場の方たちも私に仕事の相談を持ちかけてくれるようになり、「父のアシスタント」としてではなく、ようやく「森朝奈」として頼ってもらえるようになったことがうれしかった。
これ以降、少し自分に自信が持てるようになりました。
当時はつらいこともたくさんあったけど、「ピンチはチャンス」という言葉は、本当なんですね。
人との出会いから生まれる「共感力」が強みに
また、最大のピンチだったコロナ禍は、事業を見直すチャンスをくれただけでなく、「自分らしく働く」とは何かを知るきっかけもくれました。
コロナ禍から始めたYouTubeもそう。私は商品の裏側にあるストーリーを伝えることが大好きなので、皆さんに向けて情報発信をしているときはとくに「自分らしく働けている」と感じます。
それに、『お任せ鮮魚BOX』のように、自分のアイデアをカタチにして事業に貢献できたときや、お客さまから「ありがとう」「おいしかった」という言葉をもらえたときもうれしい。
浮き沈みの中でいろいろな仕事を経験してきたからこそ、「何なら力を発揮できるのか」「何に喜びを感じるのか」そういうものがわかってきたんだと思います。
また、私はIT企業から魚屋に転職して働く環境は大きく変わりましたが、お客さまを相手に商売をするという意味では双方共通しているし、すべての経験が今につながっていると感じます。
とくに、私が20代のうちにやっておいてよかったと思うのは、自分と異なるバックグラウンドを持つ人や、自分とは異なる考え方をする人たちと積極的に関わってきたこと。
多様な人の存在を1人でも多くリアルに感じられるようになると、あらゆる人への「共感」が生まれ、それが仕事に役立っていると感じます。
例えば、私には子どもはいませんが、子どもがいる友人がいれば「あの人だったら、こういう商品が欲しいだろうな」と想像できるようになる。
自分が100%同じ立場にはなれなくても、さまざまな属性・価値観の人と出会って「共感できる人」を増やしておけば、それが想像力の幅につながりますし、商売を発展させるヒントになります。
今後、寿商店を好きになってくれる人をもっともっと増やしていきたいので、私自身も引き続きいろいろな方とお会いして、想像力を豊かにしていきたい。
そして、おいしい魚を食べてくれる人を1人でも多くできたらいいなと思っています。
森朝奈さん
1986年生まれ、名古屋市出身。2009年に早稲田大学国際教養学部卒業、楽天入社。社長室配属。退職して名古屋市に戻り、2011年に父・嶢至さんが創業した、鮮魚販売や飲食店を展開する寿商店に加わった。2017年常務取締役就任。YouTubeの『魚屋の森さん』チャンネルを運営するYouTuberでもある。著書に『共感ベース思考 IT企業をやめて魚屋さんになった私の商いの心得』(KADOKAWA)
取材・文/一本麻衣 本人画像提供/森朝奈さん 編集/栗原千明(編集部)
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