元IT企業社員が「魚屋」になって学んだ働き方 「人生最大の危機」から生まれた魚屋の森朝奈さん

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長い修業の日々を経て30代を迎えた今、「ようやく自分らしく働けるようになった」と話す森さんに、「魚屋の森さん」が生まれるまでを聞いた。

手触り感のある魚屋の仕事が、自分の性分に合っていた

うちのお父さんはかっこいい──。幼い頃から、素直にそう思っていました。

保育園の食育イベントでブリの解体ショーを披露してくれた父。「朝奈ちゃんのお父さんはかっこいいね!」とたくさんの友達が声を掛けてくれたのを、今でも覚えています。

そんな私が新卒で楽天へ入社したのは、紛れもなく家業を継ぐためです。

当時はちょうどiPhoneが普及し出した頃で、生鮮食品の通販も徐々に広がりつつありました。

新しいもの好きの父は「これからはネットで魚を売る時代だ」と、早速『楽天市場』に出店。魚業界の中でもかなり早くネットで店舗を持ったのですが、売り上げは思うように伸びず。

困った父は当時大学生だった私に、「どうすればネットで魚が売れると思う?」と相談してきたんです。それは、父が初めて私にした仕事に関する相談でした。

しかし、当時の私はECに詳しいわけではなく、何も答えられませんでした。

そのときは、父の力になれないことがとても悔しかった。それと同時に、「私がITの知識を学べば、今の寿商店に欠けている部分を埋められるのでは?」と思い立ち、楽天への就職を決意しました。

ですが、入社から2年が過ぎたころ、父の病気を機に退職することに。2011年に寿商店へ入社しました。

子どもの頃からずっと魚屋の仕事は見てきたので、父が何をしているのかは何となくわかっている気でいたのですが……実際に自分が働く側になってみると、できないことばかり。たくさんの壁が待ち受けていました

例えば、魚のさばき方。この技術の習得にはものすごく苦労しました。

父は「背中を見て覚えろ」タイプの職人かたぎな人間なので、手取り足取り魚のさばき方を教えてくれるようなことはなく。

先輩従業員がさばいているのを盗み見たり、家で本やYouTubeや本を見ながら練習したりして、とにかく見よう見まねで経験を積んでいきました。

次ページどんなときに仕事の喜びを感じるのかがわかるように
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