私の患者さんのご家族の中にも、K.Hさんと同じように、仕事と介護との両立で悩んだ末に、親を施設に預けることに決めた人がいます。認知症と心臓病がある90代の母親を介護してきた60代の娘さんで、母親が自宅で転倒したのをきっかけに体のあちこちに痛みが出て、トイレの介助にもかなりの時間と労力を要するようになりました。
娘さんは平日フルタイムで仕事をしています。介護士が自宅に来る訪問介護を軸に、介護サービスを利用していましたが、日中ずっと母親を見てもらえるわけではありません。
そこで転倒後、1カ月ほどリハビリを続けて、少し歩けるようになったタイミングから、デイサービスに週6日通うことになりました。娘さんが家にいない日中はデイサービスで過ごすことで、何とか仕事と介護を両立しようとしたのです。
しかし、母親の体の状態を考えると、毎日施設に通うのは大きな負担です。それも自宅はエレベーターのないマンションの3階にあり、外出のたびに1階から3階までの階段の上り下りを伴います。施設の送迎サービスで介助を頼めるとはいえ、毎回のこととなるとかなりの負担になります。
「自分で母親を支えたい」という気持ちがとても強い娘さんですが、苦労しながらデイサービスに通う母親の姿を見るにつれ、やはり居住型の施設に預けたほうがいいのではないかと考えるようになりました。
娘さんは過去に介護休業をとって、つきっきりで母親の介護をしていたことがあります。このときも再び休職し、自分が家で介護をすることも考えたようですが、母親亡き後の自分の人生を考えると、休まずに仕事を続けたほうがいいという結論に至ったようです。ようやく気持ちを固め、施設に預けることに決めたのが、つい最近のことでした。
「自分が介護すべき」は手放す
「介護は、自分がすべき」と、かたくなに考えているご家族の方に、時折お会いすることがあります。
しかし、「自分じゃないといけない」という思いは、できる限り手放したほうがいいと考えます。自分を犠牲にして介護する状況は、精神的にもどうしても追い詰められてしまいますし、それは介護をされている本人にも伝わるものです。
「大切な人をそばで見守ってあげたい」という気持ちは大切ですが、一方で誰か1人に負担が集中する状態では、どこかで限界が来ます。在宅医療やケアが必要になったときに大切なのは、必ずしもご家族が直接的に介護に関わることではなく、介護サービスをうまく利用して第三者の手を借りながら、無理のない暮らしを続けることです。
K.Hさんは、すでに介護サービスを利用されているとのことですが、自宅で受けられる介護サービスだけでは負担が大きくなってきたのなら、施設に預けることを本格的に考えていいタイミングだと思います。
この場合、本人が希望するかが大きなハードルとなりますが、たとえ本人が自宅で過ごすことを希望しても、家族の負担が大きい場合には、どこかで折り合いをつけることが必要になってきます。トイレ介助の負担についても言及されていますが、「トイレに自力で行けなくなったとき」が、自宅以外の場所に移る1つの目安ともいえます。
施設に入所する時期について「環境に馴染むためにも、早いほうがいいのでは」とのことですが、施設の選び方は病状や体調によっても変わってくるため、「早めに入るほうが吉」ともいえません。
高齢者施設は、施設の種類によって入居条件が定められています。そのため、最初に入った施設にずっといられるとは限らず、どれくらいの期間を過ごすことができるかも、お母様の状況によって変わってきます。
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