最低賃金「1000円到達」次の目標は7年後に1370円 日本も世界標準「50%・60%ルール」を導入せよ

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この悪循環を抜け出すためには、最低賃金を適切に引き上げて負の循環を修正し、付加価値を向上させる必要があります。

もちろん、こうした提案に対しては、ビジネスモデルの改善や投資を嫌がる一部の経営者からは「淘汰政策だ!」「失業者が激増するぞ!」と感情的な反対の声があがります。

しかし、すでに述べたとおり、最低賃金の引き上げは、企業の淘汰を意図して行うものではありませんし、もちろん失業者を増やすことを狙っているわけではありません。最低賃金を適切かつ継続的に上げていくことの効用は、各企業が投資を行い、付加価値を向上させるように促すことにあります。

「淘汰だ」「失業者増加だ」と脅迫めいた反対の声を上げるのであれば、安倍政権以降に最低賃金が1.3倍にも引き上げられているにもかかわらず、なぜ淘汰や失業者の増加が確認できないのか、納得のいく説明をしてほしいと思います。

事実、すでに説明したとおり、第2次安倍政権以降、最低賃金は大幅に上昇し、宿泊・飲食業や小売業の経営者はさまざまな対応をしてきましたので、それが日本の雇用に悪影響を与えたという事実はありません。

「宿泊・飲食業や小売業の受ける影響が大きいから、最低賃金の引き上げを避けてほしい」という経営者たちの身勝手な主張に耳を傾けていては、日本の賃金はいつまで経っても上がりません。

このことは、統計を見れば誰の目にも明らかになるので、根拠なき反論を口にする前にぜひ確認してほしいものです。

賃金はイノベーションによってのみ上がる

今後の日本では、一層高齢化が進み、年金や医療費の負担が増える一方、納税者の数が減少するので、増税が必要になるのは避けようがありません。

すでに相当重くなっている現役世代の負担は、限界を迎えています。事態打開の策は、もはや賃金の引き上げ以外にはあり得ません。

賃金の引き上げには、経営者がこれまでのビジネスモデルを見直し、新たな戦略を展開して、付加価値を増やす必要があります。イノベーションが不可欠なのです。

イノベーションなしに賃金の上昇はあり得ません。人口減少が進む日本の経済はイノベーションによってのみ成長することができます。

政府の担うべき役割は、民間企業にイノベーションを促すことなので、ぜひ真剣に取り組んでほしいと思います。特に、生産性の最も低い宿泊・飲食業、サービス業、小売業のイノベーションは死活問題です。

最低賃金のさらなる継続的な引き上げが必要なのは、言うまでもありません。すでに述べたように1000円という経済的な根拠に欠けた目標に代わって、「50%・60%ルール」の導入が将来にわたる適切な最低賃金の引き上げに大いに役に立つでしょう。

「50%・60%ルール」であれば、経営者に対して将来の最低賃金の明確な推移を示すことが可能になるため、経営者も賃金の引き上げに向けた具体的な計画を立てやすくなることでしょう。

最低賃金を引き上げつつ、イノベーションを促進して、経済を成長させる。これこそ、岸田政権に求められている「新しい資本主義」です。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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